区分事務所の空室が「埋まる気配がない」売主の次の一手 事業用不動産

QUICK ANSWER ─ この記事が答える問い

募集を続けても反応がない区分事務所について、売主は次に何をすればよいのでしょうか。

賃料を下げる前に、原因を分けて点検することです。問い合わせ自体がないのか、内見まで進んでも決まらないのか。そのうえで、賃料以外の条件、規約で認められる用途の幅、契約の型式を組み直します。並行して、空室中に出ていく固定費を月額で把握してください。待てる期間が数字で見えれば、売却に切り替える判断もできます。

テナントが退去してから半年、一年。募集は出しているのに内見の話が来ない。区分所有の事務所では、こうした状態が続くことがあります。

その間も管理費と修繕積立金は毎月引き落とされ、固定資産税の通知も届きます。収入がないまま支出だけが続く状態は、時間が経つほど重くなります。

この記事では、区分所有法と借地借家法、国土交通省・国税庁の公開情報をもとに、取り得る手を整理します。制度や数値は2026年9月時点の内容であり、個別の判断は弁護士・税理士などの専門家への相談を前提としてお読みください。

「埋まらない」を切り分ける

ポイントは3個:
① 問い合わせ自体がないなら、条件か情報の出し方に原因がある
② 内見まで進んで決まらないなら、現地で見える要素が効いている
③ 市場全体が動いていないのか、自分の物件だけなのかを確かめる

まず、募集を依頼している業者に数字を出してもらってください。掲載からの反響件数、内見に進んだ件数、内見後の反応。この3つが分かれば、どの段階で止まっているかが見えます。数字がないまま賃料だけを下げても、同じ状態が続く可能性があります。

市場側の要因も確認しておきます。国土交通省は、年間約30万件の不動産の取引価格情報をもとに不動産価格指数を毎月公表しており、商業用不動産については店舗やオフィスといった区分でも示されています。(出典:国土交通省「不動産価格指数」)あわせて、周辺で同種の区画がどの程度の条件で募集されているかを複数の情報源で確認すると、自分の物件だけの問題かどうかを切り分けられます。

募集条件を賃料以外で組み直す

ポイントは3個:
① 初期費用の重さが、検討の入口で効いていることがある
② 原状回復の条件は、借りる側の退去時リスクに直結する
③ 契約の型式も、相手によっては判断材料になる
条件 見直しの方向
保証金・敷金 月数を見直す、償却の条件を整理する
フリーレント 賃料を下げずに初期負担を軽くする手段として使う
原状回復の範囲 退去時の負担がどこまでかを明確にする
内装の状態 現状のまま貸すか、最低限整えるかを比べる
契約期間・型式 短期も受けるか、定期建物賃貸借にするか

賃料は目に見えやすい条件ですが、実際には保証金の月数や原状回復の範囲が決め手になることがあります。とくに小規模な事業者にとっては、入居時に必要な現金の総額が検討の分かれ目です。賃料を下げると将来の収益評価にも響くため、初期費用の調整で対応できないかを先に検討する価値があります。

契約の型式も選択肢です。期間の定めがある建物の賃貸借をする場合には、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、契約の更新がないこととする旨を定めることができるとされています(借地借家法第38条第1項)。(出典:e-Gov法令検索「借地借家法」)将来の売却や自己使用を考えているなら、期間満了で終了する形にしておく選択もあります。ただし書面による契約と事前の書面交付による説明が要件とされているため、手順は弁護士に確認しながら進めてください。

募集を依頼する側の費用

宅地建物取引業者が宅地または建物の貸借の媒介に関して依頼者の双方から受けることのできる報酬の額の合計額は、借賃の1月分の1.1倍に相当する金額以内とされています。また、居住の用に供する建物を除く賃貸借で権利金の授受があるものについては、権利金の額を売買に係る代金の額とみなして売買の媒介に関する規定により報酬を計算することができるとされています。さらに、令和6年7月1日施行の改正により、長期間にわたって用途に供されていない、または将来にわたり供される見込みがない宅地建物の貸借の媒介について、一定の条件のもとで借賃の1月分の2.2倍を超えない範囲で報酬を受けられる特例が設けられています。(出典:国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」昭和45年建設省告示第1552号)

募集を依頼する相手を見直すことも検討材料です。同じ物件でも、事業用に強い業者と住宅中心の業者では、声をかけられる先が違います。これまでの募集でどこに情報を出していたのか、どの層に当てていたのかを確認し、必要であれば依頼先を広げる判断もあり得ます。

長く空いている物件では、この特例の対象になる場合があります。業者にとって手間のかかる案件でも取り組みやすくする仕組みであり、募集の依頼先を広げる際の材料にもなります。金額の取決めは事前に書面で確認してください。

使い方の幅を広げられるか

ポイントは3個:
① 規約および集会の決議は、区分所有者にも占有者にも関わる
② 用途の制限が、募集できる相手を狭めている場合がある
③ 建物の用途に関わる変更は、法令上の手続きが必要になることがある

区分所有法では、規約および集会の決議は、区分所有者の特定承継人に対しても効力を生ずるとされています(建物の区分所有等に関する法律第46条第1項)。また、区分所有者は建物の保存に有害な行為その他建物の管理または使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならないとされ、この規定は専有部分を占有する者にも準用されています(同法第6条)。(出典:e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」)

事務所用として募集しているが、実は規約上もっと広い業種が認められている、という場合があります。逆に、自分が可能だと思っていた用途が細則で制限されていることもあります。まず規約と使用細則を読み直し、どこまでが認められるのかを確認してください。判断が分かれる部分は弁護士に整理してもらうと、募集時の説明も安定します。

なお、建物の用途に関わる変更を伴う場合は、建築基準法上の手続きや消防関係の確認が必要になることがあります。また、管理組合への届出や承認が求められる工事もあります。思いついた用途をそのまま募集条件に書く前に、建築士や管理会社に確認しておいてください。

待てる期間を数字で出す

ポイントは3個:
① 空室中も管理費・修繕積立金・公租公課は出ていく
② これらは維持管理のための費用であり、譲渡費用にならない
③ 月額の持ち出しが分かれば、判断の期限も決まる

区分所有の一室では、賃料が入らなくても毎月の支出は続きます。管理費、修繕積立金、固定資産税と都市計画税、火災保険料。これらを合計して月額に直してください。年間でいくらの持ち出しになるのかが見えると、「あと何ヶ月待てるのか」という問いに答えが出ます。

税務面でも注意が必要です。譲渡費用の主なものとして売るために支払った仲介手数料や売主が負担した印紙税などが挙げられる一方、修繕費や固定資産税など資産の維持や管理のためにかかった費用は譲渡費用になりません。(出典:国税庁 タックスアンサー No.3255 譲渡費用となるもの)待った期間の支出が、後で売ったときに税額を減らしてくれるわけではないということです。事業としての必要経費としての扱いは別の論点になるため、整理の仕方は税理士に確認してください。

売却に切り替えるという選択

ポイントは3個:
① 空室であることが条件になる買主層がある
② 価額について意見を述べるときは、根拠を明らかにする義務がある
③ 募集と売却を並行する場合は、優先順位を決めておく

借り手が見つからないことと、買い手が見つからないことは別の問題です。自分の事務所として使いたい事業者にとっては、空室であることがむしろ条件になります。賃貸の需要が弱いエリアでも、自己使用を前提とした購入層が動いている場合があります。

売却を検討するなら、宅地建物取引業者が売買すべき価額または評価額について意見を述べるときはその根拠を明らかにしなければならないとされている点を活用してください(宅地建物取引業法第34条の2第2項)。(出典:e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」)提示された金額がどの事例をもとにしているのかを確認すれば、賃貸を続ける場合との比較が具体的になります。

募集と売却を並行する方法もあります。ただし、賃貸借契約が成立すれば売却の条件も変わります。どちらを優先するのか、契約が重なりそうなときにどう判断するのかを、依頼する業者と最初に決めておいてください。想定される行き違いについては、弁護士に確認しておくと備えになります。

売却時の税務

ポイントは3個:
① 所有期間は譲渡した年の1月1日時点で判定される
② 建物の取得費は減価償却費相当額を差し引いた額になる
③ 事業用建物の譲渡は消費税の課税対象となり得る

譲渡所得は売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算し、譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるものを長期、5年以下のものを短期として区分されます。(出典:国税庁 No.3202)税率の基礎は長期が所得税15%・住民税5%、短期が所得税30%・住民税9%で、これに復興特別所得税をあわせて申告・納付します。(出典:No.3208/No.3211)建物の取得費は、購入代金などの合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた額になります。(出典:No.3261)

また、事業に使用していた建物や店舗賃貸用の建物の譲渡は消費税の課税の対象になるとされる一方、土地の譲渡は非課税取引とされています。(出典:No.3240/No.6201)長く空室が続いた物件では、事業としての扱いがどうなるのかという論点も出てきます。賃貸を続ける場合と売却する場合の手取りを比べるためにも、早い段階で税理士に相談しておくと判断がぶれません。

【税務・法務に関する専門家相談のご案内】

税理士(不動産税務に詳しい方)
空室期間の費用の扱い、賃貸を続ける場合と売却する場合の手取り比較、取得費と減価償却の確認、引渡し時期による所有期間区分の違い、消費税の納税義務の判定など。待つ期間の損得を数字で把握するために有効です。

弁護士(不動産・賃貸借に詳しい方)
定期建物賃貸借の要件と手順、募集条件や原状回復に関する特約の設計、規約や使用細則の解釈、募集と売却を並行する場合の優先順位の取決めなど。条件を変える場面では文言が結果を左右します。

建築士
用途の変更に伴う手続きの要否、現行法令への適合状況、内装を整える範囲の検討など。募集条件を広げられるかどうかの前提を確認できます。

設備業者
空調・給排水・電気容量の状態確認と費用の概算。長く使われていない設備は稼働確認そのものが必要になります。

次の一手を決める手順

ポイントは2個:
① 原因を特定してから条件を動かす
② 期限を決めて、次の判断に進む
  • STEP1|数字を出してもらう
    反響件数、内見数、内見後の反応を確認し、どの段階で止まっているかを特定します。
  • STEP2|持ち出しを月額にする
    管理費、修繕積立金、公租公課、保険料を合計し、待てる期間を把握します。
  • STEP3|規約で使える幅を確認する
    認められる業種や工事のルールを読み直し、募集対象を広げられないか検討します。
  • STEP4|賃料以外の条件を動かす
    保証金、フリーレント、原状回復の範囲、契約期間を組み直します。
  • STEP5|依頼先を見直す
    募集の体制や報酬の取決めを確認し、必要なら依頼先を広げます。
  • STEP6|期限を決めて売却と比べる
    いつまでに決まらなければ売却に切り替えるかを決め、手取りを税理士に試算してもらいます。
  • よくある質問(FAQ)

    ポイントは2個:
    ① 制度で決まっている部分と、市場で変わる部分を分ける
    ② 待つことにも費用がかかる
    Q1. まず賃料を下げるべきですか。
    反響の数字を確認してからでも遅くありません。賃料は将来の収益評価にも影響するため、保証金やフリーレントなど初期費用の調整で対応できないかを先に検討する価値があります。
    Q2. 募集を複数社に頼んでもよいですか。
    依頼の形は媒介契約の内容によります。報酬の取決めとあわせて、現在の契約条件を確認したうえで判断してください。
    Q3. 長く空いている物件でも引き受けてもらえますか。
    長期間用途に供されていない物件の貸借の媒介については、一定の条件のもとで通常より高い報酬を受けられる特例が設けられています。金額は事前に書面で確認してください。
    Q4. 事務所以外の用途でも募集できますか。
    規約や使用細則で認められる範囲によります。あわせて法令上の手続きが必要になる場合もあるため、建築士や管理会社に確認してください。
    Q5. 定期借家にすると借り手は減りませんか。
    相手によっては敬遠されることもあります。一方で、将来の売却や自己使用を考えるなら有効な設計です。要件を満たす手順について弁護士にご相談ください。
    Q6. 内装を整えてから募集すべきですか。
    借り手の業種によって必要な仕様が異なるため、過剰な工事はかえって無駄になることがあります。費用と効果を比べ、最低限の範囲から検討してください。
    Q7. 空室期間の管理費は経費になりますか。
    売却時の譲渡費用には、維持管理のための費用は含まれないとされています。事業としての必要経費の扱いは別の論点になるため、税理士にご確認ください。
    Q8. 募集と売却を同時に進めても問題ありませんか。
    実務上は行われていますが、賃貸借が成立すると売却条件も変わります。優先順位と判断基準を業者と事前に決めておいてください。
    Q9. 売るとしたら誰が買うのですか。
    自分の事務所として使いたい事業者にとっては、空室であることが条件になります。賃貸の需要と購入の需要は別に動くため、両方を確認してみてください。
    Q10. いつまで待てばよいのでしょうか。
    月額の持ち出しを計算すれば、待てる期間は数字で決まります。期限を先に決めておくと、感情ではなく基準で次の判断に進めます。

    まとめ

    ポイントは3個:
    ① 賃料を下げる前に、どの段階で止まっているかを特定する
    ② 条件は賃料以外にも動かせる部分がある
    ③ 月額の持ち出しが、判断の期限を決めてくれる

    空室が長引くと、焦りから賃料を下げたくなります。しかし、問い合わせ自体が来ていないのか、内見しても決まらないのかで、打つべき手は違います。まず数字を出してもらうところから始めてください。

    そのうえで、保証金やフリーレント、原状回復の条件、契約の型式、そして規約で認められる用途の幅を点検します。賃料以外に動かせる部分は思ったより多くあります。

    同時に、毎月いくら出ていくのかを計算しておいてください。待てる期間が数字で見えれば、いつ売却に切り替えるかも基準で決められます。条件の設計は弁護士に、手取りの比較は税理士に。それが揃えば、次の一手は自然に決まります。

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