区分店舗の売却を考える売主が「ローン残債」を確認する手順

QUICK ANSWER ─ この記事が答える問い

ローンが残っている区分店舗は、何から確認すればよいのですか?

確認は4つの手順で進みます。登記事項証明書で抵当権や根抵当権が付いているかを見る。金融機関に売却を前提とした一括返済額を照会する。残債と税金を混同せずに手取りを試算する。決済日に抵当権の抹消まで終わる段取りを組む。法務省によると、抵当権抹消の登録免許税は不動産1物件につき1,000円で、敷地権付き区分建物は建物と敷地権の計2個で課税されます。残債が売却額を上回りそうなときは、売り出す前に税理士と弁護士に相談してください。

「ローンはまだ少し残っていますが、売れば返せると思います」。区分店舗の売主の方から、こう伺うことがあります。そのとき手元にあるのは、多くの場合、借りたときの返済予定表です。

ところが返済予定表に書かれた残高と、売却のときに実際に支払う金額は一致しないことがあります。さらに事業用のローンでは、登記の付け方が住宅ローンと違うこともあります。「売れば返せる」かどうかは、正しい数字を取り寄せてから判断するものです。

この記事では、区分店舗の売主がローン残債を確認する手順を4つに分けて整理します。個別の判断は専門家にご確認いただく前提で、どこで何を取り寄せればよいかをお示しします。

なぜ売り出す前に残債を確認するのか

ポイントは3個:

  • ローンを借りた不動産には、金融機関の抵当権が登記されているのが一般的
  • 抵当権の抹消には、金融機関から受け取る書類が必要になる
  • 残債が売却額を上回ると、自己資金で差額を埋めない限り抹消できない

区分店舗を買うときにローンを借りた場合、その不動産には金融機関の抵当権が登記されているのが一般的です。抵当権が残ったままの不動産は、買主から見れば他人の担保が付いた状態です。決済の日に残債を返し、抵当権を外してから引き渡すのが、ローンが残る不動産を売るときの基本の形になります。

法務省は、抵当権の抹消登記にあたって、金融機関から登記識別情報または登記済証、解除証書や弁済証書などの登記原因証明情報、委任状などを受け取ることを案内しています(出典:法務省民事局「抵当権の登記を抹消するための登記申請手続のご案内(令和6年4月版)」 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001415368.pdf/2026年10月時点)。つまり抹消は売主だけでは進められず、金融機関の協力が前提です。

ここで問題になるのが、残債が売却額を上回る状態です。売却代金だけでは返しきれないため、差額を自己資金で埋めない限り抵当権を外せません。この状態で売り出してしまうと、買主が見つかってから資金の手当てに追われることになります。売り出す前に残債を確かめるのは、売れるかどうかではなく、売った後に引き渡せるかどうかを確かめる作業なのです。差額が出そうな場合の進め方は、早い段階で弁護士に相談しておくと選択肢を残せます。

手順1:登記事項証明書で担保の付き方を確認する

ポイントは4個:

  • 抵当権や根抵当権は、登記事項証明書の権利に関する部分に記録される
  • 事業用のローンでは、根抵当権が設定されていることがある
  • 完済したのに抹消していない古い抵当権が残っていることもある
  • 登記簿上の住所・氏名が現在と一致しているかも確認する

最初の手順は、手元の記憶ではなく登記で確かめることです。不動産の所在地を管轄する法務局で登記事項証明書を取得すると、所有権以外の権利に関する部分に、抵当権や根抵当権の登記が記録されています。誰が、どの順位で、どのような担保を付けているかがここでわかります。

事業用の区分店舗で注意したいのが根抵当権です。事業の運転資金なども含めて継続的に借り入れる形の融資では、特定の借入れではなく一定の範囲の債権を担保する根抵当権が設定されていることがあります。根抵当権は個々の借入れを返しても自動的には消えません。どの借入れを返せば外してもらえるのかを、金融機関と個別に詰める必要があるという点で、住宅ローンの抵当権とは扱いが違います。

完済済みの抵当権と住所のずれ

登記を見ると、すでに完済したはずの古い抵当権が残っていることがあります。完済時に金融機関から書類を受け取ったまま、抹消の申請をしていなかったケースです。この場合は保管している書類を探す必要があり、見つからなければ金融機関に相談することになります。

もう一つが住所です。法務省は、抵当権抹消の申請人となる所有者の住所と氏名が、登記簿上の現在の所有者と一致している必要があるとしています。購入後に引っ越していると、抹消の前に住所の変更登記が必要になる場合があります。こうした手続きの段取りは、司法書士に依頼するのが一般的です。担保の付き方に不明な点があれば、契約書類を持って弁護士に確認するのも有効です。

手順2:金融機関に「売却前提の一括返済額」を照会する

ポイントは4個:

  • 返済予定表の残高と、実際の一括返済額は一致しないことがある
  • 一括返済の際に手数料がかかる契約もある
  • 一括返済には事前の申出期間が定められていることが多い
  • 照会は「いつ返すと、いくらになるか」という形で行う

登記で担保の付き方がわかったら、次は金額です。ここで多い誤解が、返済予定表の残高をそのまま残債と考えてしまうことです。予定表に載っているのは各回の返済後の元本の予定額で、実際に一括で返すときには、返済日までの利息や、契約によっては繰上返済の手数料が加わります。

さらに事業用のローンでは、一括返済の申出を一定期間前までに行うよう契約で定められていることがあります。決済日が決まってから慌てて連絡すると、その日に間に合わないこともあり得ます。照会するときは「この日に一括で返すと、総額でいくらになるか」と日付を指定して聞くのが要点です。あわせて手数料の有無、申出の期限、抹消書類を受け取れる時期も確認しておきましょう。

根抵当権がある場合の確認事項

根抵当権が設定されている場合は、確認すべき事項が増えます。その根抵当権で担保されている借入れがどれか、売却する区分店舗以外の借入れも含まれているか、どこまで返せば抹消に応じてもらえるか。事業全体の資金繰りと結びついているため、金融機関との話し合いが必要になります。

売却を金融機関に伝えるタイミングにも気を配りたいところです。事業の借入れが他にもある場合、取引全体への影響を考えて伝え方を整理しておくほうが安全です。ローン契約の条項の読み方に不安があるときは、金融機関に話す前に弁護士に契約書を見てもらうことをおすすめします。

手順3:残債と税金を混同せずに手取りを試算する

ポイントは4個:

  • 譲渡所得は、売却収入から取得費と譲渡費用を差し引いて計算する
  • ローンの残高は、この計算式に入らない
  • 残債を返すと手元に何も残らなくても、譲渡益が出て税金がかかることがある
  • 売却までの借入金の利息は、業務用資産なら不動産所得の必要経費になる

金額がそろったら、手取りを試算します。ここで、売主の方がもっとも誤解しやすい点を先にお伝えします。ローンの残債は、売却益にかかる税金の計算には入りません。

国税庁は、土地や建物を売ったときの譲渡所得に対する税金は他の所得と区分して計算するとしています(出典:国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm/2026年10月時点)。譲渡所得は売却収入から取得費と譲渡費用を差し引いて求め、取得費は購入代金などから建物の減価償却費相当額を差し引いた金額になるとされています(出典:国税庁「No.3252 取得費となるもの」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm/2026年10月時点)。ローンの残高はどこにも出てきません。

このため、売却代金で残債を返すと手元にほとんど残らないのに、譲渡益が出て税金だけがかかるということが起こり得ます。とくに長く貸してきた区分店舗は、毎年の償却で建物部分の取得費が小さくなっているため、この状態になりやすいのです。「残債を返せるか」と「税金を払えるか」は別々に確かめる必要があります。

手取りの試算に入れる項目

項目 どこで確かめるか 税金の計算との関係
売却価格 査定と売買契約 譲渡所得の収入になる
一括返済額 金融機関への照会 譲渡所得の計算には入らない
仲介手数料・印紙税 媒介契約と売買契約 譲渡費用の例として示されている
抵当権抹消の費用 法務局の案内と司法書士の見積り 扱いは税理士に確認
管理費等の精算 管理会社からの書類 扱いは税理士に確認
譲渡所得にかかる税金 税理士の試算 翌年の申告で納める

譲渡費用について、国税庁は売るために直接かかった費用をいうとし、仲介手数料や売主が負担した印紙税などを例に挙げています(出典:国税庁「No.3255 譲渡費用となるもの」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3255.htm/2026年10月時点)。抵当権抹消の費用や繰上返済の手数料がこれに当たるかは同庁のページに記載がありませんので、試算の段階で税理士に確認してください。

なお売却するまでの借入金の利息については、国税庁は業務用資産の購入などのための借入金の利息は必要経費になるとしています(出典:国税庁「No.2210 必要経費の知識」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm/2026年10月時点)。ただし不動産所得を生じる業務用の土地等を取得するための負債利子は、不動産所得が赤字の場合に他の所得との損益通算ができないとされています。売却の年の不動産所得の申告もあわせて税理士に相談しておきましょう。

手順4:決済日に抹消まで終わる段取りを組む

ポイントは4個:

  • 実務では決済日に、残債の返済・抵当権の抹消・所有権の移転を同時に進めるのが一般的
  • 抵当権抹消の登録免許税は、不動産1物件につき1,000円
  • 敷地権付き区分建物は、建物1個と敷地権1個の計2個で課税される
  • 申請先は不動産の所在地を管轄する法務局

最後の手順は決済日の段取りです。実務では、決済日に買主から売却代金を受け取り、その場で残債を返し、金融機関から抹消書類を受け取り、抵当権の抹消と所有権の移転の登記を同時に申請する流れが一般的です。金融機関・司法書士・買主側の段取りがそろって初めて、その日に終わるので、手順2で確認した申出の期限から逆算して日程を組みます。

費用面では、法務省は抵当権抹消の登録免許税は不動産(土地または建物)1物件につき1,000円としています。そして区分店舗の売主に関係が深いのが次の点です。同省は、敷地権付き区分建物の場合は建物1個と土地(敷地権)1個の計2個で課税され、敷地権が複数ある場合はその個数に応じて1,000円ずつ加算されるとしています(出典:法務省民事局「抵当権の登記を抹消するための登記申請手続のご案内(令和6年4月版)」 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001415368.pdf/2026年10月時点)。

区分店舗ならではの確認事項

区分店舗では、ローンとは別に管理費や修繕積立金の精算も決済日に重なります。滞納がある場合は買主との負担の取り決めが必要になり、精算額の確定には管理会社の書類が要ります。国土交通省のマンション標準管理規約は令和7年に改正され、改正区分所有法は令和8年4月1日に施行されていますので、現行の規約を確認したうえで精算の段取りを組んでください(出典:国土交通省「マンション標準管理規約」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/mansionkiyaku.html/2026年10月時点)。

テナントが入っている場合は、敷金の精算も加わります。決済日の資金の流れは、売却代金の入金、残債の返済、管理費等と敷金の精算、仲介手数料の支払いが一度に動くため、事前に一覧にしておくと当日の行き違いを防げます。精算書の内容は税務上の扱いにも関わりますので、税理士に目を通してもらうと安心です。

税務・法務の整理をあわせて進めるために

ローン残債の確認は、金融機関との契約という法務の問題と、手取りと税額の計算という税務の問題が同時に動きます。残債を返せることと税金を払えることは別の話ですから、両方を並べて確かめる必要があります。

税務面で税理士に確認したい主な事項は、譲渡所得の見込みと長期・短期の区分、取得費の算定と減価償却費相当額、譲渡費用に含められる支出の範囲、抵当権抹消費用や繰上返済手数料の扱い、売却年の不動産所得と借入金利息の処理、管理費等と敷金の精算金の扱い、翌年の申告と納税資金の確保などです。

法務面で弁護士に確認したい主な事項は、ローン契約の一括返済に関する条項と申出期限、根抵当権の被担保債権の範囲と抹消の条件、残債が売却額を上回る場合の進め方、連帯保証人がいる場合の整理、滞納管理費等の負担の取り決め、テナントの賃貸借契約の承継、売買契約の決済条件と引渡しの定めなどです。

相談のタイミングは、手順2で一括返済額がわかった時点が目安です。正確な数字が手元にあれば、両方の専門家から具体的な助言を受けられます。

よくある質問

Q1. 返済予定表の残高を残債と考えてよいですか

一致しないことがあります。一括返済のときには返済日までの利息や、契約によっては繰上返済の手数料が加わります。金融機関に「この日に一括で返すと総額でいくらになるか」と日付を指定して照会してください。契約条項の読み方に迷う場合は弁護士にご相談ください。

Q2. 抵当権が付いているかはどうやって確かめますか

不動産の所在地を管轄する法務局で登記事項証明書を取得すると、所有権以外の権利に関する部分に抵当権や根抵当権の登記が記録されています。完済したはずの古い抵当権が残っていることもありますので、売り出す前に一度確認しておくと安心です。

Q3. 根抵当権が付いていると言われました

根抵当権は一定の範囲の債権を担保するもので、個々の借入れを返しても自動的には消えません。どの借入れを返せば抹消に応じてもらえるかを金融機関と詰める必要があります。事業全体の資金繰りに関わるため、金融機関に話す前に弁護士に契約書を見てもらうことをおすすめします。

Q4. 抵当権の抹消にはいくらかかりますか

法務省は、抵当権抹消の登録免許税は不動産1物件につき1,000円とし、敷地権付き区分建物は建物1個と敷地権1個の計2個で課税されるとしています(法務省民事局の案内/2026年10月時点)。司法書士に依頼する場合はその報酬が別にかかります。

Q5. 残債を返したら手元に何も残りません。税金はかかりますか

かかる場合があります。譲渡所得は売却収入から取得費と譲渡費用を差し引いて計算し、ローンの残高はこの計算に入りません(No.3202/2026年10月時点)。手元に残らなくても譲渡益が出れば課税されますので、売り出す前に税理士に試算を依頼してください。

Q6. 繰上返済の手数料は譲渡費用になりますか

国税庁は、譲渡費用を売るために直接かかった費用とし、仲介手数料や印紙税などを例に挙げていますが(No.3255/2026年10月時点)、繰上返済の手数料や抵当権抹消の費用についての記載はありません。扱いは税理士にご確認ください。

Q7. 売却額より残債が多い場合はどうなりますか

差額を自己資金で埋めない限り、抵当権を外して引き渡すことができません。売り出してから気づくと資金の手当てに追われます。差額が出そうな段階で、金融機関との話し合い方も含めて弁護士に相談し、税額の見込みは税理士に確認してください。

Q8. 引っ越していて登記の住所が古いままです

法務省は、抵当権抹消の申請人となる所有者の住所と氏名が登記簿上の現在の所有者と一致している必要があるとしています(法務省民事局の案内/2026年10月時点)。抹消の前に住所の変更登記が必要になる場合がありますので、司法書士に段取りを相談してください。

Q9. 売却するまでのローン利息は経費になりますか

国税庁は、業務用資産の購入などのための借入金の利息は必要経費になるとしています(No.2210/2026年10月時点)。ただし土地等を取得するための負債利子は、不動産所得が赤字の場合に損益通算できないとされています。売却年の申告は税理士にご相談ください。

Q10. 決済日には何が同時に動きますか

実務では、売却代金の入金、残債の返済、抹消書類の受領、抵当権抹消と所有権移転の登記申請が同じ日に進むのが一般的です。区分店舗では管理費等の精算、テナントがいれば敷金の精算も加わります。資金の流れを事前に一覧にし、精算書は税理士に確認してもらうと行き違いを防げます。

まとめ

区分店舗の売却でローン残債を確認する手順は4つです。登記事項証明書で抵当権や根抵当権の付き方を確かめる。金融機関に日付を指定して一括返済額を照会する。残債と税金を混同せずに手取りを試算する。決済日に抹消まで終わる段取りを組む。

いちばん大切なのは、残債を返せるかどうかと、税金を払えるかどうかを別々に確かめることです。ローンの残高は譲渡所得の計算に入らないため、売却代金で残債を返すと手元に何も残らないのに税金だけがかかることがあります。長く貸してきた区分店舗ほど、償却で取得費が小さくなっていて、この状態に近づきます。

抵当権抹消の登録免許税は1物件1,000円で、敷地権付き区分建物は建物と敷地権の2個で課税されます。金額は小さくても、金融機関の書類がそろわなければ決済の日に終わりません。一括返済額がわかった時点で、税額の試算は税理士に、契約と担保の整理は弁護士に。この順番で進めれば、売れた後に引き渡せないという事態を避けられます。

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