店舗付き住宅の「店舗としての魅力」を売主がアピールする方法
店舗付き住宅を売るとき、店舗部分の魅力はどう伝えればよいですか?
「雰囲気がいい」と言うより、「この場所で、この設備で、何ができるか」を資料で見せることです。用途地域で開ける店の範囲、給排水・電気・換気などの設備、住まいと店舗の動線の分かれ方、これまでの営業やテナントの実績を一枚にまとめると、買主は自分の使い方を具体的に思い描けます。一方で、確かめていない用途や数字を約束するような伝え方は避けるべきです。表示の範囲は弁護士に、営業実績の開示や税務への影響は税理士に確認しておくと安心です。
店舗付き住宅の買主は、住まいを探している人とも、店舗を探している人とも少し違います。「住みながら商売をしたい」「将来は店を開きたい」という、両方の目的を持った人です。そのため、住宅としての情報だけを並べた販売資料では、いちばん知りたい部分が伝わりません。
店舗部分を長く使ってきた売主は、その場所の強みを誰よりもよく知っています。朝の人通り、常連の客層、厨房の使い勝手。その知識を、買主が確かめられる形に置き換えることが、店舗としての魅力を伝える近道です。
この記事では、店舗付き住宅の売主が店舗部分の魅力を伝えるための材料の集め方、資料のまとめ方、内見での見せ方、そして誇張しないための注意点を整理します。周辺環境と価格の関係については別の記事で扱っていますので、ここでは「伝え方」に絞ってお話しします。
買主が知りたいのは「ここで何ができるか」
ポイントは3個:
- 店舗付き住宅の買主は、自分の商売に使えるかどうかで判断する
- 用途地域によって、開ける店の種類や規模の考え方が変わる
- 「何ができるか」を確かめた範囲で示すことが信頼につながる
店舗付き住宅の買主がまず考えるのは、「自分の商売がここでできるか」です。飲食店を開きたい人、美容室や教室を考えている人、事務所として使いたい人。目的によって、気にする点はまったく違います。売主が最初に整理したいのは、この物件で「何ができて、何が難しいか」です。
その土台になるのが用途地域です。国土交通省は、第一種低層住居専用地域について「小規模な店や事務所をかねた住宅」などが建てられる地域と説明し、第二種低層住居専用地域では150㎡まで、第一種中高層住居専用地域では500㎡まで、第一種住居地域では3,000㎡までの店舗等が建てられるといった目安を示しています(出典:国土交通省「用途地域」 https://www.mlit.go.jp/crd/city/plan/03_mati/04/index.htm/2026年10月時点)。近隣商業地域や商業地域は、店舗の立地として想定されている地域です。
ただし、どの業種がどの規模まで認められるかの細かな判断は、用途地域だけでは決まらないことがあります。「飲食店もできます」と書く前に、業者を通じて自治体の窓口で確認してもらうか、建築士に相談しておきましょう。確かめた範囲だけを伝えることが、結果として買主の信頼を得る近道です。表示の仕方に迷う場合は、弁護士に一度見てもらうと安心です。
魅力を「資料」に置き換える ─ 4つの材料
ポイントは4個:
- 立地:用途地域、前面道路、人通りの時間帯
- 設備:給排水、電気、ガス、換気・排気、看板の位置
- 動線:店舗と住まいの出入口や水回りの分かれ方
- 実績:これまでの営業やテナントの履歴
店舗としての魅力は、言葉で語るより資料で見せるほうが伝わります。売主が集めたい材料は、大きく4つに分けられます。どれも、買主が「自分の店」を思い描くための手がかりです。
| 材料 | まとめておきたい内容 | 確認に役立つ先 |
|---|---|---|
| 立地 | 用途地域、前面道路の状況、曜日・時間帯ごとの人通りの印象、近くの駅やバス停 | 自治体の都市計画情報、業者 |
| 設備 | 給排水の位置と口径、電気の契約容量、ガスの種類、換気・排気の経路、看板やテントの位置 | 設備業者、各事業者の契約書類 |
| 動線 | 店舗と住まいの出入口が別か、水回りの共用の有無、搬入口、駐車・駐輪の場所 | 図面、写真 |
| 実績 | これまでの業種と営業年数、テナントの入居履歴、改装の履歴 | 売主の記録、税理士 |
設備は「数字と位置」で書く
店舗を探している買主は、設備を見て改装費の見当をつけます。「厨房設備あり」と書くより、電気の契約容量、ガスの種類、給排水の位置、排気ダクトの経路を図面に書き込んだほうが、ずっと伝わります。設備の情報が具体的なほど、買主は改装の見積もりを早く取れ、検討が前に進みます。
一方で、古い設備の不具合を知っている場合は、それも隠さず整理しておきます。残していく設備を「付帯設備」として引き渡すのか、撤去するのか、現状のまま引き渡すのかは、売買契約の条件に関わります。付帯設備の扱いや責任の範囲は、契約書案の段階で弁護士に確認してもらいましょう。
4つの材料を1枚の「店舗シート」にまとめる
集めた材料は、住宅としての販売図面とは別に、店舗部分だけをまとめた1枚の資料にしておくと便利です。上半分に店舗部分の平面図と設備の位置、下半分に用途地域、設備の数字、動線、これまでの業種と営業年数を並べます。店舗目的の買主は、この1枚を持ち帰って改装業者や金融機関に相談できます。
写真も、住まいの写真とは撮り方を変えます。店舗部分は、入口の外観、前面道路から見た様子、客席や売場の広さが分かる引きの写真、厨房やバックヤードの設備の写真があると、買主が使い方を想像しやすくなります。営業中の写真を使う場合は、来店客が写り込まないよう配慮しましょう。シートに載せる表現が事実と食い違っていないかは、業者と一緒に確認し、気になる表現があれば弁護士にも見てもらうと安心です。
営業実績とテナント実績の見せ方
ポイントは3個:
- 売主自身の営業実績は、何を・どこまで開示するかを先に決める
- テナントの入居履歴は、店舗としての需要を示す材料になる
- 売上の数字を出す場合は、将来も同じになると受け取られない書き方にする
店舗付き住宅の大きな強みは、「実際にここで商売が続いてきた」という事実です。売主自身が長年営業してきた場合も、テナントに貸してきた場合も、その履歴は買主にとって判断の材料になります。何年、どんな業種が、この場所で営業を続けてきたか。それだけでも、立地の力を伝える情報になります。
売上や客数の数字まで示すかどうかは、慎重に決めます。売上は売主の確定申告の内容と結びついた情報ですし、業種や経営のやり方が変われば、同じ数字になるとは限りません。数字を出す場合は「売主が営業していた当時の実績であり、将来を保証するものではない」と分かる書き方にすることが大切です。どの資料からどこまでを開示するかは、申告書の内容を知る税理士と相談して決めると安心です。
居抜きで引き継ぐ場合
同業の買主が見つかれば、内装や設備をそのまま引き継ぐ「居抜き」の形が魅力になることがあります。買主にとっては改装費と開業までの時間を抑えられる可能性があるためです。ただし、内装や設備の代金を建物の代金と分けて受け取るのか、まとめて受け取るのかで、契約の組み立ても税金の扱いも変わり得ます。
店名や顧客を引き継ぐような話になる場合は、なおさら整理が必要です。何を譲り、何を譲らないのかを契約書でどう定めるかは弁護士に、受け取るお金の税務上の扱いは税理士に、それぞれ確認してから条件を提示しましょう。
買主の「使い方」を広げる提案
ポイントは3個:
- 今の業種以外の使い方も、確かめた範囲で示す
- 令和元年の建築基準法改正で、200㎡以下の他用途への転用は確認申請が不要になった
- 店舗部分を貸す、住まいに変えるといった選択肢も買主の判断材料になる
買主の層を広げるには、今の業種以外の使い方を示すことも有効です。たとえば飲食店として使ってきた店舗部分を、物販、教室、事務所、あるいは店舗部分だけを第三者に貸す、といった使い方です。「このくらいの広さと設備なら、こんな使い方も考えられる」という提案は、店舗経験のない買主にとって特に心強い情報になります。
使い方を変えるときの手続きについて、国土交通省は令和元年6月25日に施行された改正建築基準法で、200㎡以下の建築物を他の用途に転用する場合に確認申請を不要としたことを公表しています(出典:国土交通省 報道発表資料 https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000789.html/2026年10月時点)。ただし、確認申請が不要でも、用途地域や防火などの基準に適合させる必要がなくなるわけではありません。具体的な転用の可否は、建築士に確認してもらった範囲で伝えるようにしましょう。
店舗部分を住まいとして使う選択肢も、買主によっては魅力になります。この点は売主自身の税金にも関わります。国税庁は、店舗併用住宅を売った場合のマイホームの特例について、原則として居住用部分に限って対象とし、居住用部分がおおむね90%以上であれば全体を居住用として扱えるとしています(出典:国税庁「No.3452 店舗併用住宅を売ったときの特例」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3452.htm/2026年10月時点)。売主の側でどの部分を居住用として申告できるかは、税理士に確認しておいてください。
内見の準備と、誇張しない伝え方
ポイントは4個:
- 店舗部分は「空間の広さ」と「設備の状態」が見えるように整える
- 人通りが分かる時間帯に内見を設定するのも一つの方法
- 水害ハザードマップ上の所在地は重要事項説明の対象になっている
- 不利な情報も先に伝えたほうが、交渉が安定しやすい
内見では、店舗部分の広さと設備の状態がよく見えるように整えます。営業中の物件なら、営業時間外に見てもらうのか、営業の様子を見てもらうのかを業者と相談しておきましょう。人通りが立地の強みであれば、その時間帯に合わせて内見を設定するのも一つの方法です。設備の配置を書き込んだ図面を、その場で手渡せるようにしておくと話が早く進みます。
魅力を伝えるときに大切なのは、不利な情報も同じ資料の中で先に伝えておくことです。たとえば水害のリスクについて、国土交通省は水害ハザードマップにおける対象物件の所在地を重要事項説明の対象に加え、令和2年8月28日から施行しています(出典:国土交通省 報道発表資料 https://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo16_hh_000205.html/2026年10月時点)。店舗部分は1階にあることが多く、浸水の履歴や対策は買主が特に気にする点です。知っている事実は業者に伝えておきましょう。
反響の様子は、業者からの報告で確かめられます。国土交通省の標準媒介契約約款では、専任媒介契約で2週間に1回以上、専属専任媒介契約で1週間に1回以上、業務の処理状況を報告することとされています(出典:国土交通省 標準媒介契約約款 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001723420.pdf/2026年10月時点)。問い合わせが店舗目的の人からか、住宅目的の人からかを尋ねて、資料の強調点を見直していくと効果的です。
税務・法務の確認をあわせて進めるために
店舗としての魅力を伝える作業は、どの情報をどこまで外に出すかを決める作業でもあります。伝えた内容は、後に売買契約の前提になります。資料を作る段階で、税務と法務の両面から確認しておくと安心です。
税務面で税理士に確認したい主な事項は、営業実績として開示する数字の範囲、居抜きで内装や設備を引き継ぐ場合の代金の扱い、店舗部分と居住用部分の割合と売主自身の特例の可否、店舗部分の減価償却と取得費の計算、売った年の事業所得や不動産所得の申告などです。
法務面で弁護士に確認したい主な事項は、販売資料に書く用途や設備の表現、付帯設備の引渡し条件と責任の範囲、居抜きや店名・顧客の引継ぎの契約の組み立て、テナントがいる場合の賃貸借の扱い、告知すべき不具合や浸水履歴の範囲などです。
業種や転用の可否については建築士、販売資料の表現については業者とも連携しながら、確かめた事実だけで魅力を組み立てていきましょう。
よくある質問
Q1. 店舗付き住宅の買主はどんな人が多いですか
住みながら商売をしたい人、将来店を開きたい人、店舗部分を貸して収入を得たい人など、目的はさまざまです。問い合わせの目的を業者に確かめ、資料で強調する点を合わせていくと効果的です。
Q2. どんな店が開けるかは、どう確かめればよいですか
まず用途地域を確認します。国土交通省は用途地域ごとに建てられる店舗等の目安を示しています(国土交通省「用途地域」/2026年10月時点)。業種ごとの判断は、自治体の窓口や建築士に確認してもらってください。
Q3. 設備の情報はどこまで載せればよいですか
電気の契約容量、ガスの種類、給排水の位置、換気・排気の経路など、改装費の見当がつく情報があると買主の検討が早まります。不具合を知っている設備は、その事実も整理しておきましょう。
Q4. 自分の店の売上を買主に見せてもよいですか
見せること自体は判断材料になりますが、将来も同じになると受け取られない書き方が大切です。どの資料からどこまで開示するかは、申告の内容を知る税理士と相談して決めてください。
Q5. 居抜きで売るときの注意点は何ですか
内装や設備の代金を建物と分けるかどうかで、契約の組み立ても税金の扱いも変わり得ます。契約の定め方は弁護士に、代金の税務上の扱いは税理士に確認してから条件を提示しましょう。
Q6. 今と違う業種で使えると書いてもよいですか
確かめた範囲で示すのが基本です。国土交通省は、令和元年6月25日施行の改正建築基準法で200㎡以下の他用途への転用は確認申請が不要になったとしています(国土交通省/2026年10月時点)。基準への適合は別に必要なため、建築士に確認してください。
Q7. 店舗部分を住まいに変える提案は有効ですか
住宅目的の買主には有効な場合があります。売主自身の特例は、原則として居住用部分に限られ、居住用部分がおおむね90%以上なら全体を居住用として扱えるとされています(No.3452/2026年10月時点)。税理士にご確認ください。
Q8. 浸水の履歴は伝えるべきですか
知っている事実は業者に伝えておくことをおすすめします。水害ハザードマップ上の所在地は、令和2年8月28日から重要事項説明の対象になっています(国土交通省/2026年10月時点)。告知の範囲は弁護士にも相談してください。
Q9. 内見はいつの時間帯がよいですか
人通りが立地の強みであれば、その時間帯に合わせるのも一つの方法です。営業中の物件では、営業の様子を見てもらうか、営業時間外にするかを業者と相談しておきましょう。
Q10. 反響が少ないときは何を見直せばよいですか
業者の報告で、問い合わせの目的や内見後の感想を確かめます。標準媒介契約約款では、専任媒介で2週間に1回以上、専属専任媒介で1週間に1回以上の報告とされています(標準媒介契約約款/2026年10月時点)。資料の強調点を見直すきっかけにしてください。
まとめ
店舗付き住宅の店舗としての魅力は、「ここで何ができるか」を買主が確かめられる形にしたときに伝わります。用途地域で開ける店の範囲、設備の数字と位置、店舗と住まいの動線、そしてこれまでの営業やテナントの実績。この4つを資料にまとめることが出発点です。
今の業種以外の使い方を提案すれば、買主の層は広がります。ただし、伝えるのは確かめた範囲まで。売上の数字や転用の可否を約束するような書き方は避け、不利な情報も同じ資料の中で先に伝えておくことが、結果として交渉を安定させます。
長年その場所で商売をしてきた売主の知識は、何よりの販売材料です。税理士と弁護士に資料の範囲を確かめてもらいながら、その知識を次の店主へ手渡すつもりで準備を進めてみてください。
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