築古区分店舗を売りたい売主が最初に知るべき市場の現実
築古の区分店舗を売る前に、市場について何を知っておくべきですか?
知っておきたい現実は5つです。①買主の層が限られる、②地価が上がっても区分店舗の価格には連動しにくい、③管理組合と建物全体の状態が価格に入る、④築年数や耐震性、管理規約の用途制限が見られる、⑤手取りは想像より少なくなりやすい。国土交通省の不動産価格指数では、令和7年第4四半期の店舗は前期比3.6%の低下でした。現実を早く知れば、価格の設定や準備の順番を誤らずに済みます。手取りは税理士に、管理規約や契約は弁護士に確認しておくと安心です。
「駅前の地価が上がっているとニュースで見た。うちの店舗もそれなりの値段で売れるだろう」。築年数の経った区分店舗を持つ売主から、こうした期待を伺うことがあります。けれども、実際に査定を受けてみると、期待と大きく離れた数字に戸惑う売主は少なくありません。
区分店舗は、ビルやマンションの一区画を所有する形の不動産です。土地を単独で持つ店舗や一棟のビルとは、買主の見方も、価格を決める要素もまったく違います。築古であれば、その違いはさらに大きくなります。
この記事では、築古の区分店舗を売りたい売主が最初に知っておきたい市場の現実を5つに分けて整理し、そのうえで最初に取るべき一歩をお伝えします。厳しい話も含まれますが、現実を早く知ることが、納得できる売却への近道です。
現実1:区分店舗の買主は限られる
ポイントは3個:
- 買主は主に「自分で店を開きたい事業者」と「賃料収入を得たい投資家」
- 建物全体のことを自分だけで決められない点が、買主の判断を慎重にする
- テナントが入っているかどうかで、向く買主が入れ替わる
1つ目の現実は、買主の層が限られることです。区分店舗の買主は、大きく分けて「自分で店を開きたい事業者」と「賃料収入を得たい投資家」です。住宅のように幅広い個人が検討する不動産ではありません。
しかも区分店舗では、外壁の修繕や設備の更新など建物全体に関わることは、管理組合で決めることになります。自分の区画を持っていても、建物の将来を自分だけでは決められない。この点が、一棟の物件を好む買主には敬遠される理由になります。
テナントが入っているかどうかでも、向く買主が入れ替わります。テナント付きなら投資家が、空いていれば自分で使いたい事業者が主な候補です。どちらを狙うかで、売り方も資料も変わります。テナントとの賃貸借契約がある場合、その内容は買主に引き継がれるため、契約の中身は売り出す前に弁護士と確認しておきましょう。
現実2:地価が上がっても、価格は連動しにくい
ポイントは3個:
- 令和8年地価公示の商業地は、全国平均で4.3%の上昇
- 同じころの不動産価格指数では、店舗が前期比3.6%の低下
- 区分店舗の価格は、土地より「収益」と「建物の状態」で見られやすい
2つ目の現実は、地価の上昇がそのまま区分店舗の価格に反映されるとは限らないことです。国土交通省によると、令和8年地価公示では商業地の全国平均の変動率が4.3%、三大都市圏で7.8%、地方圏で1.6%とされています(出典:国土交通省「令和8年地価公示の概要」 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001985434.pdf/2026年10月時点)。
一方で、国土交通省の不動産価格指数(商業用不動産)では、令和7年第4四半期の店舗の指数(2010年平均=100)は162.7で、前期比3.6%の低下とされています。なお、これは速報値で、初回公表後3か月間は改訂が行われるとされています(出典:国土交通省「不動産価格指数(令和7年12月・令和7年第4四半期分)を公表」 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001991499.pdf/2026年10月時点)。土地の価格と店舗の価格は、同じ方向に動くとは限らないのです。
区分店舗の場合、所有しているのは建物の一区画と、敷地全体に対する持分(敷地権)です。区画の面積が小さければ、敷地のうち自分の持分に当たる部分も小さくなります。そのため買主は、土地の価値よりも「その区画でいくらの賃料が取れるか」「建物があと何年使えるか」を中心に価格を考えがちです。地価のニュースは周辺の流れを知る材料にとどめ、自分の区画の賃料と建物の状態から価格を考える視点を持ちましょう。売却時期と税金の関係は、税理士に確認しておくと安心です。
現実3:管理組合と建物全体の状態が価格に入る
ポイントは4個:
- 買主は自分の区画だけでなく、建物全体の修繕計画と資金を見る
- 管理費・修繕積立金の額と滞納の有無が問われる
- 標準管理規約は令和7年に改正され、改正区分所有法は令和8年4月1日に施行された
- 総会の議事録に、近い将来の修繕や費用の話が出ていないかを確かめる
3つ目の現実は、区分店舗の価格には建物全体の状態が入り込むことです。買主は、自分が買う区画だけでなく、建物全体の修繕計画、修繕積立金の残高、管理組合の運営状況を見ます。築古の建物では、大規模な修繕が近づいていることも多く、「買った後にどれだけの負担が来るか」が価格に直接影響します。
管理のルールも変わりつつあります。国土交通省によると、マンション標準管理規約には単棟型・団地型・複合用途型があり、令和7年10月17日付で改正され、中核となる改正区分所有法は令和8年4月1日に施行されています(出典:国土交通省「マンション標準管理規約」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/mansionkiyaku.html/2026年10月時点)。店舗と住宅が混在する建物は複合用途型が想定する形です。個々の管理組合がいつ規約を見直すかはそれぞれですが、買主は現行の規約と直近の議事録を確認したがります。
売主にできるのは、管理会社から現行の管理規約、直近数年分の総会議事録、長期修繕計画、自分の区画の管理費・修繕積立金の額と滞納の有無を早めに取り寄せることです。議事録の中に、近い将来の修繕や一時金の話が出ていないかを確かめておきましょう。規約の読み方や、改正区分所有法が自分の建物にどう関わるかに疑問があれば、弁護士に相談してください。
現実4:築年数・耐震性・用途の制限が見られる
ポイントは3個:
- 昭和56年以前の建物は、旧耐震基準として買主の関心が高い
- 管理規約で、区画で営業できる業種が制限されていることがある
- 水害ハザードマップ上の所在地は、重要事項説明の対象になっている
4つ目の現実は、築年数とそれに伴う論点が、区分店舗の評価を左右することです。国土交通省は、昭和56年以前に建築された建築物を旧耐震基準によるものとして、耐震化の取組を進めています(出典:国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr_000043.html/2026年10月時点)。耐震診断を実施しているか、その結果はどうかは、建物全体の情報として管理組合が持っていることがあります。
区分店舗ならではの論点が、管理規約による用途の制限です。たとえば、飲食店の営業や臭気・騒音を伴う業種を制限している規約もあります。どの業種が開けるかは、店舗を探している買主にとって最も知りたい情報の一つです。規約の該当部分を確認し、解釈に迷うところは弁護士に確かめておきましょう。
1階にあることが多い区分店舗では、浸水のリスクも気にされます。国土交通省は、水害ハザードマップにおける対象物件の所在地を重要事項説明の対象に加え、令和2年8月28日から施行しています(出典:国土交通省 報道発表資料 https://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo16_hh_000205.html/2026年10月時点)。過去の浸水の有無など、売主が知っている事実は業者に伝えておきましょう。
現実5:手取りは想像より少なくなりやすい
ポイントは4個:
- 長く貸してきた建物は、償却費の合計分だけ取得費が小さくなる
- 事業用の区分店舗には、マイホームの3,000万円特別控除は使えない
- 敷地権付き区分建物の抵当権抹消は、建物と敷地権の計2個で課税される
- 税金は売った年の翌年に納めるため、納税資金を分けておく
5つ目の現実は、売却価格から手元に残る金額が、想像より少なくなりやすいことです。国税庁は、譲渡所得は売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算するとし(出典:国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm/2026年10月時点)、事業用の建物の取得費は、毎年の必要経費に算入された償却費の合計額を差し引いて計算するとしています(出典:国税庁「No.3261 建物の取得費の計算」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm/2026年10月時点)。
築古の区分店舗を長く貸してきた場合、建物部分の取得費はかなり小さくなっていることがあります。購入時より安く売ったつもりでも、税金の計算では譲渡所得が出ることがあるのです。また、国税庁がマイホームを売ったときの特例として示している3,000万円の特別控除は、居住用財産を売った場合の特例です(出典:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm/2026年10月時点)。事業用の区分店舗には使えません。
ローンが残っている場合は、決済時の一括返済に加えて抵当権の抹消が必要です。法務省は、抹消の登録免許税を不動産1物件につき1,000円とし、敷地権付き区分建物は建物1個と敷地権1個の計2個で課税されるとしています(出典:法務省民事局「抵当権の登記を抹消するための登記申請手続のご案内(令和6年4月版)」 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001415368.pdf/2026年10月時点)。税金は売った年の翌年に申告して納めますので、納税資金は最初から分けておきましょう。手取りの試算は、取得時の契約書と過去の確定申告書を持って税理士に依頼するのが確実です。
現実を踏まえた「最初の一歩」
ポイントは3個:
- 5つの現実それぞれについて、自分の区画の状況を確かめる
- 査定は複数の業者から受け、根拠を聞き比べる
- 媒介契約を結ぶ前に、手取りの試算と管理組合の資料をそろえる
5つの現実を知ったうえで、売主が最初に取るべき一歩は、自分の区画の状況を一つずつ確かめることです。下の表を使って、確認すべきことと相談先を整理してみてください。
| 現実 | 最初に確かめること | 相談先 |
|---|---|---|
| 1. 買主が限られる | テナントの有無、賃貸借契約の内容、狙う買主 | 業者、弁護士 |
| 2. 地価と連動しにくい | 区画の賃料水準、近くの取引事例 | 業者 |
| 3. 建物全体の状態 | 管理規約、議事録、長期修繕計画、管理費等 | 管理会社、弁護士 |
| 4. 築年数・耐震・用途 | 建築年、耐震診断の有無、業種の制限、浸水の履歴 | 管理組合、弁護士 |
| 5. 手取り | 取得費、償却費の合計、残債、税金の見込み | 税理士、金融機関 |
そのうえで、査定は複数の業者から受け、どの事例や賃料を根拠にしたのかを聞き比べましょう。区分店舗の取引に慣れた業者は、管理組合の資料や規約の用途制限についても具体的に質問してきます。その質問の質も、業者選びの手がかりになります。
媒介契約を結ぶと、物件の情報は外に出ていきます。国土交通省の標準媒介契約約款では、専任媒介契約は締結の翌日から7日以内の範囲、専属専任媒介契約は5日以内の範囲で指定流通機構に登録することとされています(出典:国土交通省 標準媒介契約約款 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001723420.pdf/2026年10月時点)。手取りの試算と管理組合の資料は、媒介契約の前にそろえておくのが目安です。
税務・法務の確認をあわせて進めるために
築古区分店舗の売却では、市場の現実を知ることと、自分の区画の税務・法務の状況を知ることが表裏一体です。厳しい現実があっても、手取りの見込みと契約上の論点が早く見えていれば、価格の設定や売り方の選択に落ち着いて臨めます。
税務面で税理士に確認したい主な事項は、取得費と償却費の合計額、想定価格での譲渡所得と手取り、所有期間による長期・短期の区分と売却時期、土地(敷地権)と建物の価格配分と消費税の扱い、売った年の不動産所得と精算金の扱い、翌年の納税資金の準備などです。
法務面で弁護士に確認したい主な事項は、現行の管理規約における用途の制限や届出のルール、改正区分所有法が建物に及ぼす影響、テナントの賃貸借契約の内容と引継ぎ、耐震性や浸水の履歴など告知の範囲、売買契約の責任の範囲などです。
管理組合の資料は管理会社、登記の手続きは司法書士、ローンの返済は金融機関が窓口になります。関係者が多い区分店舗だからこそ、最初に全体像をつかんでおくことが大切です。
よくある質問
Q1. 築古の区分店舗でも売れますか
売却の機会はあります。ただし買主の層が限られるため、自分で使いたい事業者と投資家のどちらを狙うかを決め、その買主が知りたい情報を準備することが大切です。
Q2. 地価が上がっているのに、査定が低いのはなぜですか
区分店舗の価格は、土地より賃料や建物の状態で見られやすいためです。令和7年第4四半期の店舗の価格指数は前期比3.6%の低下でした(国土交通省/2026年10月時点)。査定の根拠を業者に尋ねてみてください。
Q3. 管理組合の資料はなぜ必要ですか
買主は建物全体の修繕計画や資金、管理の状況を見て価格を考えるためです。標準管理規約は令和7年に改正され、改正区分所有法は令和8年4月1日に施行されています(国土交通省/2026年10月時点)。現行の資料をそろえましょう。
Q4. 修繕積立金の滞納があると売れませんか
売れないわけではありませんが、買主の判断に影響し、決済時の精算も必要になります。滞納の有無と額を管理会社に確認し、精算の方法は業者と、契約上の扱いは弁護士と相談してください。
Q5. 旧耐震の建物だと不利になりますか
買主の関心が高い点であることは確かです。国土交通省は昭和56年以前の建築物を旧耐震基準によるものとしています(国土交通省/2026年10月時点)。耐震診断の有無を管理組合に確認しておきましょう。
Q6. 管理規約で業種が制限されていると何が困りますか
店舗を探している買主にとって、開ける業種は最も知りたい情報の一つです。制限があれば、その範囲で使いたい買主に絞って売ることになります。規約の解釈は弁護士に確認してください。
Q7. 購入時より安く売るのに税金がかかるのはなぜですか
事業用の建物は、償却費の合計額を取得費から差し引くため、取得費が小さくなるからです(No.3261/2026年10月時点)。手取りの試算は税理士に依頼してください。
Q8. 3,000万円の特別控除は使えますか
この特例はマイホーム(居住用財産)を売った場合のものです(No.3302/2026年10月時点)。事業用の区分店舗には使えません。
Q9. ローンが残っていても売れますか
決済時に売却代金で残債を返し、抵当権を抹消して引き渡すのが一般的です。敷地権付き区分建物の抹消は、建物と敷地権の計2個で課税されます(法務省民事局の案内/2026年10月時点)。
Q10. まず何から始めればよいですか
管理会社から管理組合の資料を取り寄せ、税理士に手取りの試算を依頼し、複数の業者から査定の根拠を聞くことです。この3つを媒介契約の前に済ませておくと、売り出してからの手戻りが減ります。
まとめ
築古の区分店舗を売りたい売主が最初に知っておきたいのは、一棟の物件とは違う物差しで見られるという現実です。買主の層は限られ、地価が上がっても価格には連動しにくく、管理組合と建物全体の状態が価格に入り込みます。築年数や耐震性、管理規約の用途制限も見られ、手取りは想像より少なくなりやすいのが実情です。
令和8年地価公示で商業地が上昇する一方、令和7年第4四半期の店舗の価格指数は前期比で低下していました。ニュースの数字ではなく、自分の区画の賃料、建物の状態、管理の状況から価格を考える視点が欠かせません。
現実を知ることは、売却をあきらめることではありません。管理組合の資料をそろえ、手取りを税理士に、規約や契約を弁護士に確かめ、複数の業者の意見を聞く。この最初の一歩を丁寧に踏み出せば、築古の区分店舗でも、納得できる売却に近づけるはずです。
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