築古事業用区分マンションを「仲介」で売るか「買取」で売るか

QUICK ANSWER ─ この記事が答える問い

仲介と買取、どちらを選べばよいのですか?

売却価格ではなく手取りと時間で比べると判断しやすくなります。仲介は市場の買主を探す方法で、媒介契約を結ぶと標準媒介契約約款の定めにより専任媒介は締結の翌日から7日以内の範囲、専属専任媒介は5日以内の範囲で指定流通機構に登録されます。買取は業者が自ら買う方法で、この公開の工程が入りません。情報を外に出したくない場合や期限がある場合は買取が働き、価格を追うなら仲介が働きます。手取りの試算は税理士に、契約条項は弁護士にご確認ください。

築古の事業用区分マンションを売ると決めたとき、次に出てくるのが売り方の選択です。業者に相談すると「仲介で出すこともできますが、当社で買い取ることもできます」と言われることがあります。

このとき「買取は安く買われる」という印象だけで判断してしまう方が少なくありません。しかし比べるべきは提示価格ではなく、最後に手元に残る金額と、そこまでにかかる時間です。手数料、保有期間の費用、情報が出ることの影響まで含めると、順位が入れ替わることがあります。

この記事では、2つの売り方の仕組みの違いと比較の組み立て方を、国土交通省と国税庁の公開情報をもとに整理します。個別の試算は専門家にご確認いただく前提で、判断の枠組みをお渡しします。

2つの売り方は「誰が買うか」で根本的に違う

ポイントは3個:

  • 仲介は業者に買主探しを依頼する方法で、媒介契約を結ぶ
  • 買取は業者自身が買主になる方法で、買主探しの工程が入らない
  • この違いが、手数料・期間・情報の出方のすべてに波及する

まず構造の確認です。仲介では、売主が宅地建物取引業者に買主を探してもらう形になります。業者は売主と買主の間に立ち、契約の成立に向けて動きます。買取では、業者が自分で買います。間に立つ相手がいないため、売主の相手方は業者そのものです。

この違いは言葉の上のことではありません。仲介では「市場に物件を出す」という工程が入り、買取では入らないのです。築古の区分マンションでテナントが入っている場合、この一点が選択を左右することがあります。

また相手方が業者か一般の買主かによって、契約交渉の進み方も変わります。契約条項の設計や契約不適合責任の定め方は、どちらを選ぶかで組み立てが異なってきますので、売買契約書の内容は弁護士に確認してもらうと安心です(参考:e-Gov法令検索 宅地建物取引業法 https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC1000000176/2026年10月時点)。

仲介を選んだときに動く仕組み

ポイントは4個:

  • 専任媒介は締結の翌日から7日以内の範囲で定めた期間内に指定流通機構へ登録する
  • 専属専任媒介はその期間が5日以内の範囲になる
  • 業務処理状況の報告は専任媒介で2週間に1回以上、専属専任媒介で1週間に1回以上
  • 仲介手数料の上限は国土交通省(旧建設省)告示第1552号で定められている

仲介を選ぶと、決まった工程が動き始めます。国土交通省が公開している標準媒介契約約款では、指定流通機構への登録について専任媒介契約では媒介契約締結の翌日から約款の備考で定める期間内に登録し、その期間は7日以内の範囲で定められるとされています。専属専任媒介契約では同じ仕組みで、期間は5日以内の範囲です(出典:国土交通省 標準媒介契約約款 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001723420.pdf/2026年10月時点)。

同約款では、専任媒介契約では依頼者は他の宅地建物取引業者に重ねて依頼できないが自ら発見した相手方と契約できるとされ、専属専任媒介契約ではそのどちらもできないとされています。業務処理状況の報告についても、専任媒介契約で2週間に1回以上、専属専任媒介契約で1週間に1回以上とされ、方法は文書または電子メールから選ぶ形になっています。

手数料には上限がある

仲介では手数料が発生します。国土交通省は、宅地建物取引業者が売買の媒介で受け取れる報酬の額の上限を告示で定めており、これは昭和45年建設省告示第1552号です。この告示は令和6年6月21日告示第949号により改正され、令和6年7月1日から適用されています(出典:国土交通省 宅地建物取引業法関係 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000266.html/2026年10月時点)。具体的な計算は告示本文で確認できます。

手数料は成約時に発生する費用ですから、仲介で高く売れても手元に残る額は目減りします。一方で市場に広く出すことで、買取の提示額を上回る価格が付く可能性があります。手数料を差し引いた後の金額で買取価格と比べるのが正しい比べ方です。金額の組み立てと税額の見込みは、あわせて税理士に相談しておくと判断がぶれません。

買取を選んだときに起きること

ポイントは4個:

  • 買主探しの工程がないため、指定流通機構への登録や広告が入らない
  • 情報が外に出にくいため、テナントや管理組合に知られる経路が減る
  • 売主が業者に支払う仲介手数料という費用の構造が変わる
  • 一般に提示額は市場で付く価格より抑えられやすい

買取の特徴は、公開の工程が入らないことです。仲介で媒介契約を結べば数日で指定流通機構に登録され、そこから購入希望者の動きが出ます。買取ではこの流れがありません。

この性質は、築古の事業用区分マンションでは具体的な意味を持ちます。テナントや管理組合に売却を知られる経路が減るのです。営業中の店舗や事務所に内見者が来ることもありません。テナントとの関係に懸案がある場合、この違いは小さくありません。

もう一つが期間です。買主を探す工程がないため、条件が合えば決済までの見通しが早く立ちます。相続税の納付期限が迫っている、年内に整理したい、といった事情がある売主には重い利点になります。期限がからむ場合は、税務上の期限との関係を税理士に確認しておくことをおすすめします。

価格が抑えられやすい理由

一方で、買取の提示額は市場で付く価格より抑えられやすいとされます。業者は買った後に手直しをして再販したり、自社で保有して運用したりします。その費用とリスクを見込んだ金額になるためです。

築古の区分マンションでは、この見込みが大きくなりやすい要素がそろっています。設備の更新時期、管理費や修繕積立金の負担、テナントとの契約内容。業者はこれらを織り込みます。逆に言えば、資料をそろえて不確実性を減らせば、提示額が動く余地があるということです。賃貸借契約の内容に不明確な点があるなら、弁護士に整理してもらってから交渉に入ると条件が改善しやすくなります。

手取りと時間で並べて比べる

ポイントは4個:

  • 提示価格ではなく、手数料と保有期間の費用を引いた後の金額で比べる
  • 譲渡所得の計算そのものは、売却先が業者か一般の買主かで変わらない
  • 譲渡所得は長期と短期で税率が異なり、売った年の1月1日を基準に判定する
  • 売買契約書には印紙税がかかり、建物部分の消費税の扱いも論点になる

ここからが本題です。2つを同じ土俵に乗せるには、価格から引くものをそろえる必要があります。

比較の軸 仲介 買取
価格の付き方 市場の需要で決まる 業者の見込みで決まる
仲介手数料 告示の上限内で発生する 費用の構造が変わる
決済までの期間 買主が現れるまで読めない 条件が合えば見通しが早い
保有期間の費用 管理費等が売れるまで続く 期間が短いほど抑えられる
情報の出方 指定流通機構に登録される 公開の工程が入らない
内見 テナントの協力が必要になる 相手が限られ調整しやすい
譲渡所得の計算 同じ考え方で計算する 同じ考え方で計算する

表の最後の行が重要です。売却先が業者か一般の買主かで、譲渡所得の計算の考え方が変わるわけではありません。国税庁は、土地や建物を売ったときの譲渡所得に対する税金は他の所得と区分して計算し、長期譲渡所得と短期譲渡所得で税率が異なると説明しています(出典:国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm/2026年10月時点)。

その区分は、売った年の1月1日を基準に判定する仕組みです(出典:国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm、「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm/2026年10月時点)。買取は決済が早いぶん、年内に引き渡すことになりやすい点は意識しておきたいところです。

取得費と、その他の税金

手取りを左右するもう一つの要素が取得費です。国税庁は、取得費には購入代金や建築代金、購入手数料のほか設備費や改良費なども含まれるとし、建物の取得費は合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額になるとしています(出典:国税庁「No.3252 取得費となるもの」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm、「No.3261 建物の取得費の計算」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm/2026年10月時点)。築古の区分マンションは償却が進んでいる可能性があり、どちらの売り方でもここは共通に効いてきます。

売買契約書には印紙税がかかります(出典:国税庁「No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7108.htm/2026年10月時点)。また土地の譲渡および貸付けは消費税の非課税取引とされており、論点になるのは建物部分です(出典:国税庁「No.6201 非課税となる取引」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6201.htm/2026年10月時点)。売主が課税事業者かどうかで取扱いが分かれますので、価格配分の書き方とあわせて税理士に確認してください。

築古区分マンション特有の判断材料

ポイントは4個:

  • 管理費や修繕積立金の滞納は、どちらの売り方でも整理が必要になる
  • 標準管理規約は令和7年に改正され、改正区分所有法は令和8年4月1日に施行されている
  • テナントが入っている場合、賃貸人の地位と敷金の返還に関する債務が買主に移る
  • 業者の免許情報や過去の処分歴は国土交通省のサイトで検索できる

区分マンションを売るときは、専有部分だけでなく建物全体のルールが前提になります。国土交通省のマンション標準管理規約には単棟型・団地型・複合用途型の3種類があり、店舗や事務所が混在する建物は複合用途型が想定する形です(出典:国土交通省「マンション標準管理規約」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/mansionkiyaku.html/2026年10月時点)。

同省によると、標準管理規約は令和7年10月17日付で改正され、令和7年12月10日には団地型の規定の一部が修正されています。あわせて中核となる改正区分所有法は令和8年4月1日に施行されています。古い規約の写しで判断せず、現行の内容を確認するところから始めてください。解釈に迷う部分は弁護士に確認しておくと安心です。

テナントが入っている場合は、民法に賃貸物である不動産が譲渡されたときに賃貸人の地位が譲受人に移転する旨の規定があり、敷金の返還に関する債務も譲受人に引き継がれる旨の定めがあります(参考:e-Gov法令検索 民法 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089/2026年10月時点)。買取でも仲介でも、この引継ぎと精算は必要です。

相手を調べる手段がある

買取では業者が契約の相手方になりますから、相手を知っておく意味が仲介以上に大きくなります。国土交通省は宅地建物取引業者の免許情報を検索できる仕組みを公開しています(出典:国土交通省 建設業者・宅建業者等企業情報検索システム https://etsuran2.mlit.go.jp/TAKKEN//2026年10月時点)。

過去に行政処分を受けていないかも確認できます(出典:国土交通省 ネガティブ情報等検索サイト https://www.mlit.go.jp/nega-inf/cgi-bin/search.cgi?jigyoubunya=takuti/2026年10月時点)。買取の提示を受けた段階で目を通しておくと、交渉に臨む姿勢が変わります。

税務・法務の整理をあわせて進めるために

仲介と買取の比較は、手取りの試算と契約条項の確認を同時に進めないと結論が出ません。価格の差だけを見て決めてしまうと、税金や精算の違いで順位が入れ替わることがあります。

税務面で税理士に確認したい主な事項は、譲渡所得の見込みと長期・短期の区分、引渡し時期による違い、取得費の算定と減価償却費相当額、過去の償却履歴との整合、仲介手数料や測量費などの譲渡費用の範囲、管理費等や賃料の精算金の計上、敷金の処理、消費税の課税事業者としての取扱い、土地と建物の価格配分、申告の時期と必要書類などです。

法務面で弁護士に確認したい主な事項は、媒介契約書の内容と解約条件、売買契約における契約不適合責任の範囲と期間の定め、告知すべき事実の範囲、賃貸人の地位の移転と敷金返還債務の引継ぎ方、賃貸借契約の特約の有効性、管理規約上の用途制限や届出のルール、滞納管理費等の負担の取り決め、共有者がいる場合の処分権限などです。

進め方としては、まず資料をそろえて買取の提示を受け、その金額を基準にして仲介の見通しを比べると判断がしやすくなります。基準がないまま市場に出すと、途中で迷いが生じます。

よくある質問

Q1. 買取は安く買われるので損ではないですか

提示額だけで比べると不利に見えますが、仲介では手数料が発生し、売れるまでの管理費等も続きます。手数料と保有期間の費用を引いた後の金額で比べる必要があります。試算は税理士にご依頼いただくと、税額まで含めた比較ができます。

Q2. 仲介に出すと情報はどのくらいで公開されますか

標準媒介契約約款では、専任媒介は媒介契約締結の翌日から7日以内の範囲で定めた期間内、専属専任媒介は5日以内の範囲で指定流通機構に登録することになっています(標準媒介契約約款/2026年10月時点)。数日で業者間に情報が出るという理解になります。

Q3. テナントに知られずに売りたい場合はどちらですか

買取のほうが知られる経路は少なくなります。買主探しの工程がないため、指定流通機構への登録や広告、内見者の来訪が入りません。ただし賃料の支払先が変わるため、引渡しに向けた通知は必要です。通知文の内容は弁護士にご確認ください。

Q4. 仲介手数料に上限はありますか

国土交通省は、宅地建物取引業者が受け取れる報酬の額の上限を告示(昭和45年建設省告示第1552号)で定めており、令和6年6月21日告示第949号による改正が令和6年7月1日から適用されています(宅地建物取引業法関係/2026年10月時点)。具体的な計算は告示本文をご確認ください。

Q5. 専任と専属専任はどちらを選ぶべきですか

同約款によると、専任媒介は他の業者に重ねて依頼できませんが自ら発見した相手方と契約でき、専属専任媒介はそのどちらもできません。報告頻度は専任で2週間に1回以上、専属専任で1週間に1回以上とされています。買取の提示を並行して受けたいなら、この違いが判断材料になります。

Q6. 売却先が業者だと税金は変わりますか

譲渡所得の計算の考え方は売却先によって変わるものではありません。国税庁は、譲渡所得に対する税金は他の所得と区分して計算し、長期と短期で税率が異なるとしています(No.3202/2026年10月時点)。ご自身のケースの試算は税理士にご相談ください。

Q7. 買取だと決済が早いことで不利になる点はありますか

譲渡所得の長期・短期の区分は売った年の1月1日を基準に判定する仕組みです(No.3208・No.3211/2026年10月時点)。年内に引き渡すことになりやすいため、区分に影響する場面があります。時期を動かせるかは税理士の見立てを聞いてください。

Q8. 管理費を滞納していると買取も断られますか

売却できないというわけではありませんが、負担の取り決めが必要になります。どちらの売り方でも整理は避けられません。精算の形によって税務上の扱いも変わりますので、金額が残っている場合は税理士にも確認し、取り決めの書き方は弁護士に見てもらってください。

Q9. 買取業者が信頼できるか調べられますか

国土交通省の企業情報検索システムで免許情報を確認でき(企業情報検索)、ネガティブ情報等検索サイトで過去の行政処分の有無を調べられます(ネガティブ情報等検索サイト/いずれも2026年10月時点)。契約前に目を通しておくとよいでしょう。

Q10. 両方を並行して検討できますか

買取の提示を受けてから仲介の見通しを比べるという進め方が現実的です。基準となる金額があると、市場に出した後の判断もぶれにくくなります。ただし媒介契約の種類によって制約が生じますので、契約を結ぶ前に条件を確認し、必要なら弁護士に相談してください。

まとめ

仲介と買取の違いは、誰が買うかという一点から生まれます。仲介では市場に物件を出す工程が入り、標準媒介契約約款の定めにより専任媒介は締結の翌日から7日以内の範囲、専属専任媒介は5日以内の範囲で指定流通機構に登録されます。買取ではこの工程がありません。

そこから、手数料の有無、決済までの期間、情報が外に出るかどうかという違いが派生します。築古の事業用区分マンションでは、テナントや管理組合に知られる経路が減ることが実際の利点になる場面があります。一方で、買取の提示額は業者の見込みを反映して抑えられやすくなります。

比べるべきは提示価格ではなく手取りと時間です。譲渡所得の計算の考え方は売却先によって変わりませんから、差が出るのは手数料と保有期間の費用、そして引渡し時期です。資料をそろえて買取の提示を受け、その金額を基準に仲介の見通しを並べる。税額の試算は税理士に、契約条項は弁護士に。この順番で進めれば、どちらを選んでも納得のいく決着になります。

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