店舗付き住宅の売却で「過去の増改築」が問題になった場合
昔の増築や改装について買主から質問されました。売れなくなるのですか?
売れなくなるとは限りませんが、問題を3つに分けて整理する必要があります。建築の手続きを踏んでいたか、登記と現況が合っているか、税金の計算にどう影響するかです。手続きの証明書類がない建物について、国土交通省は「既存建築物の現況調査ガイドライン」を示しており、建築士や指定確認検査機関が建築基準法への適合状況を調べる方法が整理されています。最新版は令和8年9月の第5版です。隠して売ると後で争いになりやすいため、事実を調べて開示する方向で、弁護士と税理士に相談しながら進めてください。
店舗付き住宅は、長い年月のあいだに手を入れられていることが多い建物です。商売が広がって裏に倉庫を建て増した。店を縮めて住まいを広げた。2階に部屋を一つ足した。売主ご本人ではなく、親の代の工事ということも珍しくありません。
そうした工事は、売却の場面で突然問題として浮かび上がります。買主から「この部分の図面はありますか」「登記の面積と違いませんか」と聞かれ、答えに詰まる。増改築そのものより、それを説明できないことが価格と交渉を重くします。
この記事では、店舗付き住宅の売却で過去の増改築が問題になったとき、売主が何をどの順番で確かめればよいかを、国土交通省などの公開情報をもとに整理します。個別の判断は専門家にご確認いただく前提で、問題の切り分け方をお渡しします。
過去の増改築は3つの形で問題になる
ポイントは3個:
- 建築の手続きを踏んでいたかという、建築基準法上の問題
- 登記されている床面積や種類が現況と合っているかという、登記の問題
- 増改築にかけた費用が取得費や按分にどう影響するかという、税務の問題
「増改築が問題になった」と一言でいっても、中身は3つに分かれます。この3つは担当する専門家も、調べる書類も、解決の方法も違います。混ぜたまま悩むと手が止まりますので、まず切り分けます。
| 問題の種類 | 確かめること | 主な相談先 |
|---|---|---|
| 建築の手続き | 確認済証・検査済証の有無、工事の時期と内容 | 建築士、指定確認検査機関、特定行政庁 |
| 登記のずれ | 登記上の床面積・種類と現況の違い | 土地家屋調査士、法務局 |
| 税務 | 工事費の記録、償却の履歴、居住用と店舗用の床面積 | 税理士 |
| 売買契約での扱い | 何を告知し、責任をどう定めるか | 弁護士 |
表の最後の行は、上の3つを調べた結果を契約にどう落とし込むかという問題です。民法は、引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合の買主の権利について定めを置いています(参考:e-Gov法令検索 民法 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089/2026年10月時点)。調べてわかった事実を、どの範囲で告知し、責任をどう定めるかは、調査の結果が出た段階で弁護士に設計してもらうのが安全です。
検査済証がない増改築には「現況調査」という道がある
ポイントは4個:
- 国土交通省は平成26年7月に、検査済証のない建築物の適合状況調査のガイドラインを公表した
- このガイドラインは令和7年4月1日付で「既存建築物の現況調査ガイドライン」に統合されている
- 最新版は令和8年9月の第5版で、建築士や指定確認検査機関が調査を行う
- 検査済証がない場合は工事着手時の規定への適合状況を確認し、着手時を特定できなければ現行規定への適合が前提になる
最初の問題は、増改築のときに建築の手続きを踏んでいたかどうかです。手続きを踏んでいれば、工事後の検査に合格した証明として検査済証が交付されているはずです。ところが古い店舗付き住宅では、この検査済証が見当たらない、そもそも交付されていないということがあります。
この状態について、国土交通省は平成26年7月2日に「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」を公表しました。既存建築ストックの有効活用の円滑化の観点から、指定確認検査機関を活用して建築基準法への適合状況を調査する方法を示したものです(出典:国土交通省 報道発表資料 https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000488.html/2026年10月時点)。このガイドラインは、令和7年4月1日付で「既存建築物の現況調査ガイドライン」に統合・一本化されています。
現況調査ガイドラインが示していること
統合後のガイドラインは改訂が続いており、最新は令和8年9月の第5版です。同ガイドラインは、既存建築ストックの有効活用の円滑化を図ることを目的に、既存建築物の増築・改築・用途変更などに際して建築基準法令への適合状況を調査する手順や方法を示しています(出典:国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドライン(第5版)」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/002021290.pdf/2026年10月時点)。
調査は、建築主の依頼に応じて一級建築士・二級建築士・木造建築士がそれぞれ設計や工事監理が可能な建築物について行い、指定確認検査機関が行うことも可能とされています。そして検査済証のない建物について、同ガイドラインは直近の工事に検査済証がない場合は工事着手時の規定への適合状況を確認し、着手時を特定できない場合は建築物全体を現行の建築基準法令の規定に適合させることとするとしています。調査結果は現況調査報告書にまとめられ、増築等や用途変更の建築確認申請で活用されるとされています。
売主にとってのこの記述の意味は、工事の時期を示す資料があるかどうかで、調査の物差しが変わるということです。親の代の工事でも、当時の請負契約書、領収書、写真、近所に出した挨拶状などが時期の手がかりになります。調査を依頼するかどうかの判断と依頼先は建築士に相談し、調査結果を売買の場でどう扱うかは弁護士に確認してください。
店舗と住宅のあいだの「用途変更」をどう見るか
ポイントは3個:
- 店舗付き住宅では、店舗部分と住宅部分の使い方を入れ替えた経緯があることが多い
- 改正建築基準法は令和元年6月25日に全面施行され、200平方メートル以下の建築物の他用途への転用は建築確認手続きが不要とされた
- 手続きの要否と、買主や金融機関が建物をどう評価するかは別の問題として考える
店舗付き住宅ならではの論点が、使い方の変更です。商売をやめて店舗部分を住まいにした、逆に住まいの一部を店舗に広げた、というように、建物の中の用途が入れ替わっていることがよくあります。増築を伴わなくても、この入れ替えが問題として指摘されることがあります。
国土交通省によると、改正建築基準法は令和元年6月25日に全面施行され、200平方メートル以下の建築物の他用途への転用は、建築確認手続きを不要とするとされています(出典:国土交通省 報道発表資料「改正建築基準法が6月25日から全面施行されます」 https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000789.html/2026年10月時点)。規模の小さい店舗付き住宅では、この範囲に入る場合があります。
手続きと評価は別の問題
ただし注意したいのは、この見直しが「確認の手続き」についてのものだという点です。買主や金融機関は、手続きが必要だったかどうかとは別に、建物が今どういう状態にあるかを見ます。用途が入れ替わった経緯を説明できないと、それ自体が不確実性として価格に織り込まれます。
また、いつ用途を変えたかによって、当時の手続きの要否が変わることもあり得ます。「今の基準なら手続き不要だから問題ない」と自分で結論づけず、変更の時期と規模を建築士に伝えて評価を受けてください。買主への説明の仕方は、その評価を踏まえて弁護士と詰めるのが堅い進め方です。
登記と現況のずれを確かめる
ポイントは4個:
- 建物を新築した場合、所有者は1か月以内に建物の表題登記を申請しなければならないとされている
- 表示に関する登記は所有者などが単独で申請できる
- 増築で床面積が変わっていると、登記上の面積と現況が一致しないことがある
- ずれがある場合の登記の手続きは土地家屋調査士に相談する
2つ目の問題は登記です。建物の登記には、所在や種類、構造、床面積といった建物の物理的な状況を記録する部分があります。法務局は、建物を新築した場合には所有者は1か月以内に建物の表題登記を申請しなければならないとし、表示に関する登記は所有者などが単独で申請できるとしています(出典:法務局「登記の申請は誰がしなければならないのですか?」 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/000130966.pdf/2026年10月時点)。
増築をすると床面積が変わります。そのときに登記を直していなければ、登記上の床面積と現況が一致しない状態が続いています。店舗を住宅に変えたなど種類が変わっている場合も同様です。売却の場面では、買主や金融機関が登記と現況の一致を確認しますので、このずれが指摘されます。
まず登記事項証明書と現況を比べる
確かめ方はシンプルです。法務局で登記事項証明書を取り、記録されている床面積や種類を、図面や実際の建物と比べます。法務局によると、登記事項証明書は窓口で600円、オンライン請求で郵送受取なら520円です(出典:法務局「登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です」 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/online_syoumei_annai.html/2026年10月時点)。
ずれがあった場合に、どの登記をどう申請するかは個別の判断になります。建物の表示に関する登記は土地家屋調査士の専門分野ですので、図面と現況の写真を持って相談してください。登記を直すには建物の現況を測る必要があるため、時間がかかります。売り出してから直すのではなく、売り出す前に着手するのが理想です。登記を直さずに現況のまま引き渡す選択をする場合は、その取り決めを売買契約にどう書くかを弁護士に確認し、測った床面積を按分の資料として使えるかは税理士に相談しておくと、後の作業が重ならずに済みます。
増改築は税金の計算にも響く
ポイントは4個:
- 取得費には購入代金や建築代金のほか、設備費や改良費も含まれる
- 建物の取得費は所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて求める
- 店舗併用住宅の特例は居住の用に使っていた部分に限られ、床面積で按分する
- 増改築で居住用と店舗用の床面積が変わっていると、按分の数字も変わる
3つ目の問題は税務です。増改築にかけた費用は、売却の税金と無関係ではありません。国税庁は、取得費には売った土地や建物の購入代金、建築代金、購入手数料のほか設備費や改良費なども含まれるとし、建物の取得費は購入代金などの合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額になるとしています(出典:国税庁「No.3252 取得費となるもの」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm/2026年10月時点)。
つまり過去の増築費用は、記録が残っていれば取得費に積み上がる余地があります。逆に記録がなければ、その分を取得費として主張しにくくなります。建築の手続きの問題で探した請負契約書や領収書は、税金の計算でもそのまま役に立ちます。同庁は、事業に使われていた建物については取得から売却までの毎年の減価償却費を合計するとしていますので(出典:国税庁「No.3261 建物の取得費の計算」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm/2026年10月時点)、店舗部分の増築費用を事業で償却してきた場合はその履歴との整合も必要です。
按分の床面積が変わっている
店舗付き住宅で見落としやすいのがこちらです。国税庁は、店舗併用住宅を売ったときにマイホームの3,000万円の特別控除の特例などを受けられるのは自分の居住の用に使っていた部分に限られるとし、居住用部分が全体のおおむね90パーセント以上であれば全体を居住用として扱えるとしています。按分は家屋と敷地のそれぞれについて床面積を基準に行うとされています(出典:国税庁「No.3452 店舗併用住宅を売ったときの特例」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3452.htm/2026年10月時点)。
増改築で店舗を縮めて住まいを広げていれば、居住用部分の割合は購入時より上がっています。90パーセントの境目をまたいでいる可能性もあります。按分に使う床面積は、登記の数字ではなく使用の実態で考える必要があり、だからこそ現況を正確に把握する作業が税務にも直結します。登記のずれを直す際に測った床面積は、按分の資料にもなります。居住用部分の割合の判定は、図面と使用実態を示して税理士に相談してください。
税務・法務の整理をあわせて進めるために
過去の増改築の問題は、建築・登記・税務の3つの事実を調べたうえで、それを売買契約にどう反映するかという法務の問題に行き着きます。調べる作業と契約に落とし込む作業を分けて考えると、相談先と順番がはっきりします。
税務面で税理士に確認したい主な事項は、増改築費用を取得費に加算できるかとその裏づけ資料、事業で償却してきた増築部分の履歴との整合、建物の取得費の計算、居住用部分と店舗用部分の床面積の按分とおおむね90パーセントの判定、3,000万円特別控除などの特例の適用可否、譲渡所得の見込みと申告に必要な書類などです。
法務面で弁護士に確認したい主な事項は、増改築や用途変更の経緯をどこまで告知するか、現況調査の結果を売買契約でどう扱うか、契約不適合責任の範囲と期間の定め方、登記と現況のずれを引渡しまでに直すか現況で引き渡すかの取り決め、共有者や相続人がいる場合の合意の取り方、工事の請負業者との過去の契約関係などです。
あわせて、建築の手続きの評価は建築士に、登記のずれは土地家屋調査士に相談します。4者の見立てがそろってから売り出すと、買主からの質問に一度で答えられます。
よくある質問
Q1. 検査済証がないと売れないのですか
売れないとは限りません。国土交通省は、検査済証のない建築物について建築基準法への適合状況を調査する方法を「既存建築物の現況調査ガイドライン」で示しています(第5版/2026年10月時点)。調査の要否と依頼先は建築士に、売買での扱いは弁護士にご相談ください。
Q2. 以前のガイドラインと現在のものは違うのですか
国土交通省は平成26年7月2日に検査済証のない建築物の適合状況調査のガイドラインを公表しましたが、令和7年4月1日付で「既存建築物の現況調査ガイドライン」に統合・一本化されています(報道発表資料/2026年10月時点)。最新は令和8年9月の第5版です。
Q3. 誰に調査を頼めばよいですか
同ガイドラインは、建築主の依頼に応じて一級建築士・二級建築士・木造建築士がそれぞれ設計や工事監理が可能な建築物について調査を行い、指定確認検査機関が行うことも可能としています。建物の規模と構造によって頼める相手が変わりますので、まず建築士に相談してください。
Q4. 工事の時期がわかりません
同ガイドラインは、検査済証がない場合は工事着手時の規定への適合状況を確認し、着手時を特定できない場合は建築物全体を現行の規定に適合させることとしています。時期の手がかりになる請負契約書、領収書、写真などを探すことで、調査の物差しが変わる可能性があります。
Q5. 店舗を住居に変えたのは手続きが必要だったのですか
国土交通省によると、令和元年6月25日に全面施行された改正建築基準法で、200平方メートル以下の建築物の他用途への転用は建築確認手続きを不要とするとされています(報道発表資料/2026年10月時点)。ただし変更の時期や規模で判断が変わり得ますので、建築士にご確認ください。
Q6. 登記の床面積が実際と違うと言われました
増築をしたのに登記を直していないと、登記上の床面積と現況が一致しないことがあります。法務局は新築の場合に所有者が1か月以内に表題登記を申請しなければならないとしています(法務局の案内/2026年10月時点)。増築後の手続きは土地家屋調査士にご相談ください。
Q7. 増築にかけた費用は税金で考慮されますか
国税庁は、取得費には購入代金や建築代金のほか設備費や改良費なども含まれるとしています(No.3252/2026年10月時点)。記録があれば取得費に積み上がる余地があります。建物部分は償却を差し引きますので、計算は税理士にご依頼ください。
Q8. 増改築で居住用部分が増えました。特例の判定は変わりますか
国税庁は、店舗併用住宅の特例は居住の用に使っていた部分に限られ、居住用部分が全体のおおむね90パーセント以上なら全体を居住用として扱えるとしています(No.3452/2026年10月時点)。割合が変わっていれば判定も変わり得ますので、図面を示して税理士にご相談ください。
Q9. 親の代の工事なので詳しいことがわかりません
わからないことはわからないと伝えるほうが、後の争いを防げます。そのうえで、遺品の中の契約書や領収書、近隣の方の記憶、古い写真などから時期を推定します。告知の書き方は、わかっていることとわかっていないことを分けて書く形を弁護士と相談して決めてください。
Q10. 何から手を付ければよいですか
登記事項証明書を取り、図面と現況を比べるところからです。そのうえで、建築の手続きは建築士に、登記のずれは土地家屋調査士に、税金は税理士に、契約での扱いは弁護士に相談します。工事の請負契約書や領収書は、手続きの調査と税金の計算の両方に使えますので、最初に探してください。
まとめ
店舗付き住宅の売却で過去の増改築が問題になったら、まず問題を3つに切り分けます。建築の手続きを踏んでいたか、登記と現況が合っているか、税金の計算にどう響くか。担当する専門家も調べる書類も違うため、混ぜたまま悩まないことが第一歩です。
検査済証がない増改築については、国土交通省の「既存建築物の現況調査ガイドライン」があり、最新は令和8年9月の第5版です。工事着手時を特定できるかどうかで調査の物差しが変わるため、時期の手がかりを探す価値があります。店舗と住宅の用途の入れ替えについては、令和元年6月25日施行の改正で200平方メートル以下の他用途への転用は確認手続きが不要とされましたが、手続きの要否と建物の評価は別の問題です。
そして増改築は、取得費と居住用部分の按分という税務の数字にも響きます。探した請負契約書や測った床面積は、建築・登記・税務のすべてで使えます。事実を調べて開示する方向で、建築士・土地家屋調査士・税理士・弁護士の見立てをそろえてから売り出す。この順番が、説明できない不安を説明できる事実に変えます。
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