店舗付き住宅の売却でリフォーム費用を経費計上する条件

QUICK ANSWER ─ この記事が答える問い

売却前にかけたリフォーム費用は経費になるのですか?

国税庁は、修繕費など資産の維持管理のためにかかった費用は譲渡費用にならないとしています。つまりリフォーム代を売却の経費として引くという考え方は原則として通りません。行き先は3つに分かれます。事業用部分の修繕費はその年の必要経費、資本的支出は減価償却を通じて、居住用部分の改良費は取得費に反映されます。どこに振り分けるかで結果が変わるため、工事の前に税理士に相談しておくことをおすすめします。

「売れやすくするために先に直しておいた分は、売却の経費で落ちますよね」。店舗付き住宅の売主の方から、この質問をいただくことがあります。外壁を塗り替えた、店舗部分の内装を入れ替えた、給湯器を新しくした。いずれもまとまった金額です。

ところが税金の計算では、リフォーム費用の多くは「売却の経費」という箱には入りません。入る箱は別にあり、しかも店舗付き住宅の場合は住んでいた部分と商売に使っていた部分で行き先が変わります。

この記事では、店舗付き住宅のリフォーム費用がどこに計上されるのかを、国税庁の公開情報をもとに整理します。個別の判定は税理士にご確認いただく前提で、考え方の筋道をお渡しします。

リフォーム費用は「譲渡費用」にならないのが原則

ポイントは3個:

  • 国税庁は、修繕費や固定資産税など維持管理の費用は譲渡費用にならないとしている
  • 譲渡費用は「売るために直接かかった費用」という性格で判断される
  • 譲渡費用にならないからといって、税額にまったく影響しないわけではない

出発点を確認しておきます。国税庁は、譲渡費用になるのは売るために直接かかった費用である一方、修繕費や固定資産税など、その資産の維持や管理のためにかかった費用は譲渡費用にならないとしています(出典:国税庁「No.3255 譲渡費用となるもの」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3255.htm/2026年10月時点)。

リフォームは建物の維持や改良のための支出です。売る直前に行ったとしても、支出の性格が「売るために直接かかった費用」に変わるわけではありません。ここを誤解したまま譲渡所得の内訳書に書き込んでしまうと、後の確認で問題になりかねません。

では、かけたお金はどうなるのか

譲渡費用に入らないというだけで、支出が税金の計算から消えてしまうわけではありません。工事の内容と、建物のどの部分に対する支出かによって、別の箱に振り分けられていきます。箱は大きく3つです。

1つ目は、事業用部分の修繕費としてその年の必要経費になる道。2つ目は、資本的支出として減価償却を通じて費用化される道。3つ目は、建物の取得費に反映される道です。どの箱に入るかは自分で選べるものではなく、工事の実質で決まります。判定は専門的ですから、税理士に内容を見てもらうのが確実です。

修繕費か資本的支出かを分ける基準

ポイントは4個:

  • 区別は「修繕」「改良」という名目ではなく、工事の実質で判定される
  • おおむね3年以内の周期で行う修理・改良は修繕費として扱える
  • 一つの修理・改良の金額が20万円未満なら修繕費として扱える
  • 判断が不明確な場合は60万円未満、または前年末の取得価額のおおむね10%相当額以下という基準がある

リフォーム費用の行き先を決める中心が、この判定です。国税庁は、修繕費と資本的支出の区別は修繕や改良という名目ではなく実質で判定するとしたうえで、修繕費として必要経費にできる場合の基準を示しています(出典:国税庁「No.1379 修繕費とならないものの判定」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1379.htm/2026年10月時点)。

同庁が挙げている基準は、おおむね3年以内の周期で行われる修理・改良である場合、一つの修理・改良などの金額が20万円未満である場合です。また資本的支出か修繕費か不明確な場合には、その金額が60万円未満、または資産の前年末の取得価額のおおむね10パーセント相当額以下であれば修繕費として扱える旨が示されています。

資本的支出とされる典型例

反対に、原則として資本的支出になるものも示されています。物理的に付け加えた部分の金額、用途変更のための改造や改装に直接要した金額、部品を高品質・高性能のものに取り替えた場合の通常の取替え金額を超える部分です。

店舗付き住宅でよくあるのは、店舗部分を別の業種向けに作り替える改装です。これは用途変更のための改造に当たる余地があり、金額も大きくなりがちです。工事の見積りを取った段階で税理士に内容を伝え、どちらに振り分けられる見込みかを確認しておくと、資金計画も立てやすくなります。

事業用部分と居住用部分で行き先が変わる

ポイントは3個:

  • 業務用資産の修繕費は一定の場合を除き必要経費になるが、家事上の費用は必要経費にならない
  • 国税庁は店舗併用住宅の費用を「家事関連費」として整理している
  • 必要経費になるのは業務遂行上直接必要だったことが明らかに区分できる部分に限られる

ここが店舗付き住宅ならではの論点です。国税庁は、業務用資産の修繕費は一定の場合を除き必要経費になるとしつつ、家事上の費用は必要経費に算入できないとしています(出典:国税庁「No.2210 必要経費の知識」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm/2026年10月時点)。

注目したいのは、同庁がこの整理のなかで店舗併用住宅を名指ししている点です。店舗併用住宅の費用のように家事と業務の両方にかかわる費用は家事関連費とされ、必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる部分の金額に限られると示されています。

つまり「店舗付き住宅だから半分くらいは経費」という大づかみな処理は想定されていません。記録に基づいて区分できることが条件です。工事の請求書を部位ごとに分けてもらう、共用部分の工事はあらかじめ按分の考え方を決めておく。こうした準備が結果を左右します。

賃貸している店舗部分の修繕費

店舗部分を第三者に貸していた場合は不動産所得の計算になります。国税庁は、不動産所得の金額は総収入金額から必要経費を差し引いて計算するとし、必要経費になる主なものとして固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費を挙げています(出典:国税庁「No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1370.htm/2026年10月時点)。

ただし同庁は、必要経費にできるのは不動産収入を得るために直接必要な費用で、家事上の経費と明確に区分できるものだとしています。退去後に行った工事が原状回復なのか次の募集のための改装なのかは、テナントとの合意内容にも左右されます。費用負担の取り決めで争いがある場合は、弁護士に契約書を確認してもらうほうが安全です。

取得費に反映されるリフォーム

ポイントは3個:

  • 取得費には購入代金のほか、設備費や改良費も含まれる
  • 建物の取得費は、合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて求める
  • 事業に使っていなかった建物は、定められた算式で償却費相当額を計算する

居住用部分のリフォームは必要経費になりませんが、行き先がないわけではありません。国税庁は、取得費となるものとして土地建物の購入代金や建築代金のほか、設備費や改良費を挙げています(出典:国税庁「No.3252 取得費となるもの」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm/2026年10月時点)。資本的支出に当たる工事は、この改良費として取得費に積み上がる余地があります。

取得費が増えれば譲渡所得が小さくなります。その意味では、譲渡費用にならなくても税額に影響する道が残っているということです。ただし建物の取得費は、合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて求める仕組みです(出典:国税庁「No.3261 建物の取得費の計算」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm/2026年10月時点)。

事業用だった部分と、そうでない部分

同庁は、事業に使われていた建物については取得から売却までの毎年の減価償却費を合計するとし、必要経費に算入していない部分があっても合計する点は変わらないとしています。一方、事業に使われていなかった建物は「取得価額×0.9×償却率×経過年数」で償却費相当額を計算し、その額は取得価額の95パーセントが上限とされています。

店舗付き住宅は、同じ1棟のなかに事業に使っていた部分とそうでない部分が併存します。したがって償却費相当額の計算も部分ごとに分けて考える必要が出てきます。経過年数や償却率の当てはめは誤りやすいところですから、按分とあわせて税理士に検算してもらうことをおすすめします。

売却直前のリフォームをどう考えるか

ポイントは3個:

  • 税務上の扱いと、売却価格に反映されるかどうかは別の問題として考える
  • 買主が解体や全面改装を前提にしている場合、工事が価格に乗らないこともある
  • 直す前に、現況のまま売る場合の条件もあわせて検討しておく

ここまでの整理をまとめると、売却直前のリフォームは「譲渡費用として引く」という形では効きません。効くとすれば、資本的支出として取得費に積み上がる経路か、事業用部分の修繕費としてその年の所得計算に入る経路です。どちらも金額や工事内容の判定を経たうえでの話になります。

そのうえで考えたいのが、工事が売却価格に反映されるかという別の軸です。買主が店舗部分を自分の業態に合わせて作り替えるつもりなら、売主が入れた内装は撤去対象になります。工事代を払ったうえで価格も上がらないという結果になれば、税務上の扱い以前に判断として損です。

現況のまま売り出して反応を見てから判断するという選択肢も含め、工事に着手する前に不動産会社と話しておく価値があります。そのうえで、支出の税務上の見込みは税理士に確認し、テナントとの費用負担に疑義があれば弁護士にも当たっておく。この三段構えで臨むのが堅い進め方です。

税務・法務の整理をあわせて進めるために

リフォーム費用の扱いは、税務だけで完結しません。誰が費用を負担するのか、工事後の内装を誰のものとして扱うのか、退去時に撤去する約束があるのか。こうした法務上の事実が、税務の整理の前提になります。

税務面で税理士に確認したい主な事項は、工事ごとの修繕費と資本的支出の判定、金額基準や周期基準の当てはめ、家事関連費としての按分根拠、事業用部分の必要経費への算入可否、取得費に加える改良費の範囲、償却費相当額の計算方法、申告時の添付書類などです。

法務面で弁護士に確認したい主な事項は、テナント入居中に行う工事の費用負担と承諾の取り方、造作や内装の所有関係、原状回復義務の範囲、賃貸借契約の特約の有効性、工事請負契約の内容と瑕疵があった場合の責任、売買契約における告知事項の範囲などです。

工事をしてから相談するのではなく、見積りの段階で両方に当たっておくほうが選択肢は広く残ります。着工後では振り分けを変えることができません。

証拠として残しておく書類

ポイントは3個:

  • 家事関連費の区分は「取引の記録などに基づいて」行うことが前提とされている
  • 請求書の内訳が部位ごとに分かれていると、按分の説明がしやすくなる
  • 古い工事の資料も、取得費の裏づけとして価値を持つ場合がある

国税庁が家事関連費について「取引の記録などに基づいて」区分できる部分に限ると示していることからわかるのは、記録のない支出は説明が難しいということです。金額の大きい工事であれば、見積書・請負契約書・請求書・領収書・工事後の写真まで一式をそろえておく価値があります。

書類 何を説明するための資料か
見積書・請負契約書 工事の範囲と内容。修繕費か資本的支出かの判定材料になる
部位別の内訳明細 店舗部分と住宅部分の区分。按分の根拠として機能する
請求書・領収書 支出の事実と金額、支払った時期
過去の確定申告書・減価償却の記録 過去の資本的支出がどう処理されてきたかの履歴
工事前後の写真・図面 用途変更や設備の入れ替えの有無を示す補強資料

代々受け継いできた店舗付き住宅では、何十年か前の工事の資料が残っていることもあります。古すぎて役に立たないと決めつけず、まとめて税理士に見てもらうとよいでしょう。取得費を裏づける材料が一つ増えるだけで、結果が変わる場合があります。

よくある質問

Q1. 売る直前のリフォーム代は譲渡費用になりますか

国税庁は、修繕費や固定資産税など資産の維持管理のためにかかった費用は譲渡費用にならないとしています(No.3255/2026年10月時点)。売る直前かどうかで性格が変わるものではありません。資本的支出に当たる工事であれば取得費に反映される余地がありますので、判定は税理士にご確認ください。

Q2. 修繕費と資本的支出はどこで分かれるのですか

国税庁は、名目ではなく実質で判定するとし、おおむね3年以内の周期で行う修理・改良、一つの修理・改良の金額が20万円未満の場合などを修繕費として扱える基準として示しています(No.1379/2026年10月時点)。具体的な当てはめは工事内容次第ですので、税理士にご相談ください。

Q3. 20万円未満なら無条件に修繕費ですか

国税庁が示しているのは、一つの修理・改良などの金額が20万円未満の場合は修繕費として必要経費にできるという基準です。ただし何を「一つの修理・改良」と数えるかという論点が残ります。工事を分割して請求してもらえば足りるという単純な話ではないため、判定は税理士に委ねるのが確実です。

Q4. 店舗部分と住宅部分をまたぐ外壁塗装はどう扱いますか

国税庁は、店舗併用住宅の費用のように家事と業務の両方にかかわる費用を家事関連費とし、必要経費になるのは取引の記録などに基づいて業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる部分に限られるとしています(No.2210/2026年10月時点)。按分の根拠を用意して税理士に相談してください。

Q5. 自宅部分のリフォームは何にもならないのですか

必要経費にはなりませんが、国税庁は取得費となるものとして購入代金のほかに設備費や改良費を挙げています(No.3252/2026年10月時点)。資本的支出に当たる工事なら取得費に反映される余地があります。該当するかどうかは税理士にご確認ください。

Q6. 取得費に足したリフォーム代も減価償却で減るのですか

国税庁は、建物の取得費は建築代金や購入代金などの合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて求めるとしています(No.3261/2026年10月時点)。したがって支出額がそのまま残るわけではありません。計算の当てはめは税理士に検算してもらうと安心です。

Q7. 事業で経費にしていなかった償却費はどうなりますか

国税庁は、事業に使われていた建物については取得から売却までの毎年の減価償却費を合計するとし、必要経費に算入していない部分があっても合計する点は変わらないとしています(No.3261/2026年10月時点)。計上していなかったから有利になるという話ではない点に注意が必要です。

Q8. テナントが入ったままの改装費はどう考えますか

賃貸している部分は不動産所得の計算になり、必要経費になる主なものとして修繕費が挙げられています(No.1370/2026年10月時点)。ただし費用をどちらが負担する約束かが前提になります。契約書の解釈に疑義があるときは弁護士にも確認しておくとよいでしょう。

Q9. 領収書をなくした工事は諦めるしかありませんか

家事関連費の区分は取引の記録などに基づくことが前提とされていますので、記録がないと説明が難しくなります。ただし請負契約書、振込の記録、工事業者に残っている控えなど、代わりになる資料が見つかることもあります。手元にあるものを一度まとめて税理士に見てもらってください。

Q10. 売る前に直したほうが得なのでしょうか

税務上の扱いと、売却価格に反映されるかどうかは別の問題です。買主が自分の業態に合わせて作り替える前提なら、入れた内装は撤去対象になることもあります。現況で売り出して反応を見る選択肢も含め、着工前に不動産会社と税理士の双方に当たっておくのが堅い進め方です。

まとめ

店舗付き住宅のリフォーム費用は、「売却の経費」として引くという形では効きません。国税庁が維持管理の費用は譲渡費用にならないとしているためです。代わりに、事業用部分の修繕費としてその年の必要経費になる道、資本的支出として処理される道、改良費として取得費に反映される道の3つに振り分けられていきます。

どの道に入るかは工事の実質で決まり、名目では決まりません。しかも店舗付き住宅では、家事と業務の両方にかかわる費用が家事関連費として扱われ、記録に基づいて区分できる部分だけが必要経費になります。つまり準備の質がそのまま結果に出る領域です。

着工前に見積りを税理士に見せ、費用負担や造作の扱いに疑義があれば弁護士に契約書を確認してもらう。そして工事が価格に乗るかは不動産会社に聞く。この三方向を押さえてから判断すれば、払った費用を活かせる可能性が高まります。

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