テナントがいる時に売るか空室で売るか|売主の選択と判断

QUICK ANSWER ─ この記事が答える問い

テナントがいる状態と空室、どちらで売るのがよいか?

一概にどちらが有利とは言えず、物件や状況によって変わります。テナントがいる状態は投資家に、空室は自ら使いたい買主にも届きやすいという違いがあります。買主の層、価格の評価、退去の可否、手取りの4点で比べるのがおすすめです。手取りの試算は税理士に、賃貸借の扱いは弁護士に相談しながら判断すると安心です。

テナントが入っている事業用不動産を売るとき、多くの売主が迷うのが、「今のテナントがいる状態のまま売るか」「空室にしてから売るか」という選択です。同じ物件でも、どちらの状態で売り出すかによって、届く買主も、価格の評価も変わってきます。一見すると小さな違いに思えても、この選択が売却の結果を大きく左右することもあります。

この選択に、どんな物件にも当てはまる唯一の正解はありません。物件の状況、テナントとの関係、売主が何を重視するかによって、向く選び方は変わります。だからこそ、それぞれの特徴を理解し、自分のケースに照らして考えることが大切です。感覚だけで決めてしまうと、後で「別の選び方のほうがよかったかもしれない」と感じることもあります。とくにこの選択は、一度動き出すと後戻りしにくい面があります。テナントに退去してもらってから「やはりテナントがいたほうがよかった」と思っても、簡単には元に戻せません。だからこそ、動き出す前によく考えておくことに意味があります。

この記事では、テナントがいる状態で売るか、空室で売るかを迷う売主に向けて、二つの選択の違いと、判断の考え方を整理します。買主の層、価格の評価、退去の可否、手取りという観点から見ていきます。それぞれの特徴を知ることで、自分の物件にどちらが向くのかが、少しずつ見えてくるはずです。なお、適した選択は物件や状況によって変わります。具体的な判断は、税理士や弁護士、業者など専門家へ相談することをおすすめします。

二つの選択が意味すること

ポイントは2個:
① 状態によって届く買主の層が変わる
② それが価格の評価にもつながる

まず、二つの選択が何を意味するのかを押さえておきましょう。テナントがいる状態で売るとは、賃貸中のまま、賃料が入ってくる収益物件として売り出すことです。一方、空室で売るとは、テナントに退去してもらい、誰も入っていない状態にして売り出すことを指します。この二つは、単に入居者の有無が違うだけではなく、売却の性格そのものが変わってきます。

観点 テナントがいる状態 空室
主な買主 投資家が中心 投資家+自ら使う買主
評価の軸 収益(利回り) 利用しやすさ・自由度
賃料収入 売却まで得られる 退去後は得られない

このように、どちらの状態で売るかによって、買主の顔ぶれと、その買主が何を評価するかが変わります。テナントがいれば収益で、空室なら利用のしやすさで見られやすい、という違いです。この違いを理解することが、判断の出発点になります。まずは、それぞれの状態が売却にどう影響するかを、市場を知る業者や、税務の面から税理士に相談してみるとよいでしょう。次の項目から、具体的な観点を見ていきます。どちらを選ぶかは、単に「高く売れそうなほう」という視点だけでなく、自分が何を優先したいのかにも関わってきます。手間をかけずに早く売りたいのか、時間をかけても手取りを最大にしたいのか。売主自身の考え方も、判断の一つの軸になります。何を優先するかがはっきりすれば、選ぶべき道もおのずと見えてきます。

買主の層と価格の評価がどう変わるか

ポイントは2個:
① テナントありは収益で評価されやすい
② 空室は買主の幅が広がりやすい

テナントがいる状態で売る場合、買主の中心は、収益を目的とする投資家になりやすいとされます。すでに賃料が入ってくる状態のため、買った直後から収益が見込める点が、投資家にとっての魅力です。この場合、物件は収益、つまり利回りをもとに評価されやすくなります。安定した賃料が続いている物件ほど、評価も高まりやすい傾向があります。投資家にとっては、入居者を探す手間なく、すぐに収益を得られる点も、テナント付き物件の利点になります。

一方、空室で売る場合は、投資家に加えて、自らその物件を使いたいと考える買主にも届きやすくなります。たとえば、その場所で事業を始めたい人などです。買主の幅が広がる分、思わぬ相手から関心を得られることもあります。この場合、収益よりも、その物件の使いやすさや自由度が評価されやすくなります。自分の裁量で内装や使い方を決められる点が、こうした買主にとっての魅力になります。

どちらの評価の軸が、自分の物件にとって有利に働くかは、物件の立地や状態、賃貸の状況によって変わります。収益力の高い物件ならテナントありが、立地がよく自ら使いたい需要が見込める物件なら空室が、それぞれ強みを発揮しやすいこともあります。自分の物件がどちらの買主に響きやすいかは、市場を知る業者に相談し、価格の評価が手取りにどうつながるかは税理士に確認しながら見極めるとよいでしょう。同じ物件でも、届く相手が変われば、その物件の魅力の伝わり方も変わってきます。収益を重視する投資家にとっての魅力と、自ら使いたい買主にとっての魅力は、いつも同じとは限りません。どちらの買主に、自分の物件のどんな点が響くのかを考えることが、状態を選ぶうえでの大切な手がかりになります。

空室にする場合の退去をめぐる注意点

ポイントは2個:
① 退去は自由にできるとは限らない
② 手続きや費用、時間がかかることもある

空室で売ることを選ぶ場合、避けて通れないのが、今のテナントに退去してもらう、という手続きです。ここには、注意すべき点があります。売主の都合で、テナントにいつでも出て行ってもらえる、というわけではないためです。この点を見落とすと、空室で売る計画そのものが立ち行かなくなることもあります。

賃貸借契約は、借りている側の権利も守られる仕組みになっているとされます。そのため、売主の側から退去を求める場合には、契約の内容や、法的な手続きが関わってきます。場合によっては、立ち退きにあたっての費用や、まとまった時間が必要になることもあるとされます。空室で売ると決めても、思うようにすぐ空けられるとは限らない、という点は押さえておくべきです。テナントにも、そこで事業を営むなどの事情があり、退去は相手の生活や商売にも関わる問題です。だからこそ、一方的に進めるのではなく、ていねいな対応が求められます。

この退去をめぐる論点は、専門的で、対応を誤るとトラブルにもつながりかねません。テナントとの関係をこじらせないためにも、退去を検討する場合には、その可否や進め方、必要になり得る費用について、弁護士に相談してから動くことが大切です。退去にかかる費用が税務にどう関わるかは、税理士に確認しておくと安心です。ここを軽く考えないことが、空室での売却を成功させる鍵になります。とくに、退去を求めてから実際に空室になるまでには、想定以上の時間がかかることもあります。売却の予定を立てる際には、この期間も見込んでおかないと、計画が狂ってしまうこともあります。空室で売ると決めるなら、退去の見通しを早い段階で立て、余裕を持って進めることが大切です。退去の交渉が長引けば、その分だけ売却の開始も遅れることになります。

「手取り」で二つを比べる

ポイントは2個:
① 売値だけでなく手取りで比べる
② 退去費用や空室期間も織り込む

二つの選択を比べるとき、売値の見込みだけで判断するのは十分ではありません。大切なのは、最終的に手元に残る手取りで比べることです。テナントありと空室とでは、売値の見込みだけでなく、そこにかかる費用や、得られる賃料も変わってくるためです。売値の数字だけを見て決めてしまうと、実際に手元に残る金額を見誤ることになりかねません。

たとえば、空室にして売る場合、退去にあたって費用がかかることがあります。また、退去してから売れるまでの間は、賃料収入が入りません。一方、テナントがいる状態なら、売れるまで賃料が入り続けます。こうした違いを織り込んで比べないと、見かけの売値では有利でも、手取りでは逆になる、ということも起こり得ます。空室にする手間や時間をかけたのに、結果として手取りが増えなかった、という事態も避けたいところです。

それぞれの選択について、想定される売値から、税金や費用を差し引き、賃料収入や空室期間も加味して、手取りを試算してみる。こうして数字で比べると、感覚では見えにくかった差が明らかになります。この手取りの試算は専門的なため、税理士に依頼するのが確実です。退去費用や契約に関わる部分は弁護士に、売値の見込みは業者に相談しながら、総合的に判断しましょう。数字で比べることの利点は、思い込みを排して、冷静に判断できる点にあります。「テナントがいたほうが高く売れそう」「空室のほうが自由に売れそう」といった漠然とした印象は、実際に試算してみると覆ることも少なくありません。感覚ではなく、根拠のある数字をもとに選ぶことが、後悔のない判断へとつながります。

【税務・法務に関する専門家相談のご案内】

● 税理士(不動産投資専門)
テナントありと空室それぞれの手取りの試算、退去費用や空室期間を織り込んだ比較、売却益にかかる税金、賃料収入の扱いなど、二つの選択を数字で比べる際の税務は税理士の専門領域です。感覚では見えにくい差を明らかにするのに役立ちます。

● 弁護士(不動産・事業用)
テナントに退去を求める場合の可否や手続き、立ち退きに関わる論点、賃貸借契約や敷金の引き継ぎ、売買契約の条件など、テナントと契約に関わる論点は弁護士への相談が有効です。とくに退去をめぐる対応は、動く前の確認がトラブルを防ぎます。

● 建築士
建物や設備の状態、遵法性を確認できると、どちらの状態で売る場合でも、査定の裏づけや買主への説明材料になります。空室にする場合の原状回復の見通しにも役立ちます。

● 設備業者
設備の状態確認は、物件の魅力を伝える材料になります。空室にして売る場合、引き渡しに向けた状態の把握にも役立ちます。

よくある質問(FAQ)

テナントがいる状態で売るか空室で売るかの判断について、よく寄せられる疑問を10問にまとめました。適した選択は物件や状況により異なるため、最終的な判断は税理士・弁護士・業者など専門家にご確認ください。
Q1. テナントありと空室、どちらが高く売れますか?
一概には言えず、物件や状況によります。収益力が高ければテナントあり、自ら使う需要が見込めれば空室が有利なことも。業者に相談しましょう。
Q2. テナントがいるまま売るとはどういう状態ですか?
賃貸中のまま、賃料が入る収益物件として売り出すことです。買主に賃貸借契約が引き継がれます。引き継ぎは弁護士に確認しましょう。
Q3. テナントありの買主はどんな人ですか?
収益を目的とする投資家が中心になりやすいとされます。買った直後から賃料が入る点が魅力で、利回りで評価される傾向があります。
Q4. 空室にすると買主は増えますか?
投資家に加え、自ら使いたい買主にも届きやすくなります。買主の幅が広がる一方、賃料収入は退去後に得られなくなります。
Q5. テナントには自由に退去してもらえますか?
売主の都合でいつでも、とはいかないことがあります。借りる側の権利も守られるため、退去の可否や手続きは弁護士に確認しましょう。
Q6. 退去には費用や時間がかかりますか?
立ち退きの費用や、まとまった時間が必要になることもあるとされます。空室での売却を考える際は、この点も織り込んで判断しましょう。
Q7. どちらを選ぶか、何で判断すればよいですか?
買主の層、価格の評価、退去の可否、手取りの4点で比べます。とくに手取りは費用や空室期間も織り込んで、税理士に試算を依頼しましょう。
Q8. 手取りはどう比べればよいですか?
想定売値から税金や費用を引き、賃料収入や空室期間も加味して比べます。見かけの売値と逆転することもあるため、税理士に相談を。
Q9. 迷ったらどうすればよいですか?
一人で抱えず、業者・税理士・弁護士に相談しましょう。市場は業者、手取りは税理士、退去や契約は弁護士と、相談先を分けると整理しやすくなります。
Q10. テナントに売却を知らせる必要はありますか?
テナントありで売る場合、所有者が変わることが関わります。通知や対応の進め方は、トラブルを避けるため弁護士に確認しておくと安心です。

まとめ

ポイントは3個:
① 状態によって買主の層と評価の軸が変わる
② 空室にする場合は退去の可否に注意する
③ 買主層・評価・退去・手取りの4点で判断する

テナントがいる状態で売るか、空室で売るか。この選択に唯一の正解はなく、物件や状況によって、向く選び方は変わります。大きな違いは、届く買主の層です。テナントがいれば収益を目的とする投資家に、空室なら自ら使いたい買主にも届きやすくなり、それぞれ評価される軸も変わってきます。まずはこの違いを理解することが、判断の出発点になります。

空室にすることを選ぶ場合は、テナントの退去が自由にできるとは限らない点に注意が必要です。契約や法的な手続きが関わり、費用や時間がかかることもあるとされます。ここを軽く見ると、思わぬつまずきにつながりかねません。そして、二つを比べる際は、売値だけでなく、退去費用や空室期間も織り込んだ手取りで比較することが大切です。見かけの売値だけを見ていると、実際に残る額を見誤ることになります。数字で比べることが、確かな判断の支えになります。

買主の層、価格の評価、退去の可否、そして手取り。この4つの観点から、自分の物件と状況に照らして考えれば、納得のいく判断に近づけます。そのうえで、判断に迷う場面では、市場や売り方は業者に、手取りの試算は税理士に、退去や契約は弁護士に相談することが確かな支えになります。この選択は、売却の入り口にある大切な分かれ道です。ここで自分の物件と状況に合った選び方をしておくことが、その後の売却全体を左右します。焦らず、じっくりと見極めることが、後悔のない売却につながります。どちらを選んでも、専門家とともに進めれば、思わぬ落とし穴を避けやすくなります。本記事を全体像の把握に役立てつつ、具体的な判断は税理士・弁護士・業者とともに進めていきましょう。

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