築古店舗付き住宅の売却で「個人間売買」を選ぶメリットとリスク

QUICK ANSWER ─ この記事が答える問い

築古店舗付き住宅を、不動産会社を通さず個人間売買で売るのはアリなのか?

個人間売買は法律上可能で、仲介手数料がかからない点が大きなメリットとされます。一方で、契約書の不備や契約不適合責任をめぐるトラブル、買主の融資が通りにくい問題、親族間ではみなし贈与と判定される税務リスクなど、注意点も多い取引です。特に築古店舗付き住宅は権利・法規制・税務が複雑になりやすいため、買主が決まっている場合でも、契約書は弁護士や司法書士、価格と税金は税理士に確認しながら進めることが一般的に推奨されます。

「隣の方が買いたいと言ってくれている」「店舗の常連さんから譲ってほしいと相談された」──築古の店舗付き住宅では、こうした形で買主候補が先に見つかり、不動産会社を通さない「個人間売買(直接売買)」を検討するケースが少なくありません。

仲介手数料がかからない魅力は確かにありますが、店舗付き住宅は住居と事業用部分が一体となった物件であり、一般の住宅よりも確認すべき権利関係・法規制・税務上の論点が多い傾向があります。知識のないまま当事者同士だけで進めると、後から大きなトラブルや想定外の税負担につながるおそれもあります。

本記事では、築古店舗付き住宅を個人間売買で売却する場合のメリットとリスクを整理し、トラブルを避けるための進め方、専門家に相談すべきタイミングを解説します。個人間売買と仲介のどちらが自分に合うか判断するための、一般的な参考情報としてご活用ください。

個人間売買とは|仲介との違いと法律上の位置づけ

ポイントは3個:①個人間売買は法律上問題なく可能、②仲介で行われる重要事項説明や契約書チェックが省かれる点が本質的な違い、③その分の確認作業を自分たちで担うか、専門家に個別依頼する必要がある。

個人間売買とは、不動産会社の仲介を入れず、売主と買主が直接契約する取引のことです。自分が所有する不動産を自ら売却することに宅地建物取引業の免許は不要とされており、法律上は問題なく行えます。親族間、隣地所有者間、テナントだった方への売却など、すでに当事者同士の信頼関係がある場面で選ばれる傾向があります。

仲介との本質的な違いは、「プロによるチェック機能の有無」です。仲介では宅地建物取引士による重要事項説明、契約書の作成、物件調査、価格の妥当性検証などが行われますが、個人間売買ではこれらが基本的に省かれます。つまり、権利関係・法規制・建物状態の調査や契約書の作成を、当事者自身で行うか、弁護士・司法書士・税理士などの専門家へ個別に依頼する形になります。

項目 仲介 個人間売買
仲介手数料 発生(3%+6万円+税が上限の目安) 不要
重要事項説明 宅建士が実施 なし(自己責任で調査)
契約書作成 不動産会社が作成 当事者または弁護士等へ依頼
買主の住宅ローン 利用しやすい 利用が難しい場合がある
価格の妥当性 査定・市場で検証される 当事者間で決定(税務リスクに注意)

この違いを理解したうえで、メリットとリスクを順に見ていきましょう。判断に迷う場合は、契約前の段階で弁護士や税理士に取引の枠組みごと相談する方法もあります。

個人間売買のメリット|費用・スピード・柔軟性

ポイントは3個:①仲介手数料が双方とも不要になる、②販売活動が不要でスケジュールを柔軟に組める、③引き渡し条件や残置物の扱いなどを当事者間で柔軟に決めやすい。

仲介手数料がかからない

最大のメリットは費用面です。仲介手数料は「売買価格×3%+6万円+消費税」が上限の目安とされ、売主・買主の双方に発生します。個人間売買ではこれが不要になるため、双方にとって取引コストを抑えられる可能性があります。ただし、契約書作成を弁護士に依頼する費用、登記の司法書士報酬、税務相談の税理士費用などは別途見込んでおく必要があり、「完全にタダで取引できる」わけではない点には注意が必要です。

販売活動が不要でスケジュールが柔軟

買主がすでに決まっている場合、広告掲載や内見対応といった販売活動が不要です。店舗を営業しながらの売却では「売りに出していることを周囲に知られたくない」というニーズもあり、個人間売買なら情報を出さずに進められる点はメリットといえます。引き渡し時期も当事者間の合意で柔軟に設定しやすい傾向があります。

条件設定の自由度が高い

店舗設備や残置物をそのまま引き継ぐ、賃貸借契約を継続したまま所有権だけ移す、引き渡し後も一定期間住み続けるなど、信頼関係のある当事者間ならではの柔軟な条件設定がしやすいのも特徴です。ただし、口約束のまま進めるとトラブルの火種になるため、合意した条件は契約書に明記し、内容に不安があれば弁護士のチェックを受けることが望ましいといえます。

個人間売買のリスク|契約・融資・税務の落とし穴

ポイントは4個:①契約書の不備が後のトラブルに直結、②契約不適合責任の取り決めが曖昧になりやすい、③買主の住宅ローン利用が難しい場合がある、④価格設定次第でみなし贈与など税務リスクが生じ得る。

契約書の不備によるトラブル

個人間売買のトラブルで多いとされるのが、契約書の不備や、そもそも契約書を作らずに進めてしまうケースです。代金の支払時期、所有権移転の時期、固定資産税の清算、引き渡し条件、解除の条件などが曖昧なまま進むと、認識のズレが表面化したときに収拾がつかなくなるおそれがあります。信頼関係がある相手だからこそ、書面を整えることが関係を守ることにつながります。契約書の作成・チェックは不動産分野に詳しい弁護士へ依頼するのが安心です。

契約不適合責任をめぐる争い

築古物件では、引き渡し後に雨漏り・シロアリ・配管の劣化などが見つかることがあります。契約不適合責任の範囲や免責を契約書で定めていないと、「聞いていなかった」「現状のまま渡す約束だった」と争いになりがちです。把握している不具合は告知書に正直に記載し、免責とする範囲を契約書に明記しておくことが一般的に推奨されます。取り決めの文言は法的な解釈に関わるため、ここでも弁護士の関与が有効です。

買主の融資が通りにくい

金融機関の住宅ローンは、重要事項説明書の提出を求めるのが一般的とされ、宅建業者が関与しない個人間売買では融資審査のハードルが上がる傾向があります。特に店舗付き住宅は住居と事業用部分が混在するため、そもそも住宅ローンの対象になるか自体が論点になりやすい物件です。買主が融資を予定している場合は、事前に金融機関へ確認し、必要に応じて重要事項説明のみ不動産会社に依頼する方法も検討するとよいでしょう。

価格設定の税務リスク(みなし贈与など)

個人間売買で特に注意したいのが価格設定です。市場価格より著しく低い価格で売買すると、時価との差額が「みなし贈与」と判定され、買主に贈与税が課される可能性があるとされています。親族間や知人間では「安くしてあげたい」という心理が働きやすく、善意がかえって相手の税負担を生むおそれがあります。適正価格の把握には不動産会社の査定や不動産鑑定士の評価を活用し、価格設定と税務上の影響については売買の前に税理士へ相談することが強く推奨されます。また、売主側も譲渡所得税の申告が必要になる場合があるため、店舗部分の減価償却を含めた計算を税理士に確認しておきましょう。

築古店舗付き住宅ならではの確認ポイント

ポイントは4個:①再建築可否・既存不適格の確認、②用途地域による店舗利用の制限、③テナントがいる場合の契約引き継ぎ、④店舗設備の状態と引き渡し範囲。築古×店舗付きは個人間売買の難易度が上がりやすい。

再建築可否・法規制の調査

築古物件では、接道義務を満たさない再建築不可や、現行法規に適合しない既存不適格のケースがあります。仲介であれば不動産会社が調査する内容ですが、個人間売買では当事者が役所調査などで確認する必要があります。買主が建て替えや大規模改装を想定している場合、ここの確認漏れは深刻なトラブルにつながるため、判断が難しければ建築士への調査依頼を検討しましょう。

用途地域と店舗利用の制限

買主が「同じ場所で店をやりたい」と考えていても、用途地域によって営める業種や面積に制限がある場合があります。現在の店舗が営業できていても、業種が変わると認められないケースもあるため、買主の利用目的と法規制の整合は事前に確認しておきたいポイントです。

テナント・賃借人がいる場合の引き継ぎ

店舗部分を第三者に貸している場合、賃貸借契約と敷金(保証金)の返還義務は原則として買主に引き継がれるとされています。賃借人は借地借家法で保護されており、売買を理由に退去を求めることは原則できません。賃貸借契約書の内容確認、敷金の清算方法、賃借人への通知などは法的な論点を含むため、個人間売買であっても弁護士に確認しながら進めることが望ましい場面です。

店舗設備の状態と引き渡し範囲

厨房設備・空調・ダクト・給排水など、店舗特有の設備は劣化が進んでいることも多く、「動くと思っていたら壊れていた」という行き違いが起きやすい部分です。引き渡す設備の範囲と状態を設備表として書面化し、必要に応じて設備業者に点検や見積もりを依頼しておくと、後の争いを避けやすくなります。

個人間売買の進め方|流れと専門家の使いどころ

ポイントは3個:①価格は査定や鑑定で根拠を持たせる、②契約書は弁護士・登記は司法書士・税務は税理士へ、③判断に迷う段階で専門家に相談するのが結果的に近道。

個人間売買は、一般的に次のような流れで進みます。

  • STEP1:物件調査と価格の根拠づくり
    登記簿・法規制・建物状態を確認し、査定や鑑定で適正価格の根拠を整えます。価格の税務影響は税理士に確認します。
  • STEP2:条件の合意と契約書作成
    代金・引き渡し・契約不適合責任・設備の範囲などを取り決め、契約書は弁護士に作成またはチェックを依頼します。
  • STEP3:売買契約の締結・手付金授受
    契約書に署名押印し、印紙を貼付。手付金の額と解除条件を明確にしておきます。
  • STEP4:決済・所有権移転登記
    残代金の支払いと同時に、司法書士に依頼して所有権移転登記を行うのが安全とされます。固定資産税等の清算もここで行います。
  • STEP5:引き渡しと翌年の確定申告
    鍵・図面・設備資料を引き渡します。譲渡益が出た場合は翌年の確定申告が必要で、税理士への依頼が安心です。
  • 「仲介手数料を節約したつもりが、トラブル対応で費用も時間も余計にかかった」という事態を避けるには、専門家への個別依頼を惜しまないことが鍵といえます。契約面は弁護士、登記は司法書士、価格と税金は税理士、建物は建築士──餅は餅屋で分担するのが、個人間売買を安全に進めるための一般的なセオリーです。なお、契約書作成や重要事項説明など一部の業務だけを不動産会社に依頼できるサービスもあるため、不安が大きい場合は併せて検討するとよいでしょう。

    個人間売買が向くケース・仲介を選ぶべきケース

    ポイントは2個:①買主が確定し現金決済・物件もシンプルなら個人間売買の合理性が高まる、②融資利用・テナント付き・権利関係が複雑な場合は仲介や専門家の関与が安全。
    個人間売買が向く傾向 仲介を選ぶほうが安全な傾向
    買主が決まっており信頼関係がある これから買主を探す必要がある
    買主が現金で購入できる 買主が住宅ローン等の融資を利用する
    空室・自己使用で権利関係がシンプル テナント入居中・再建築不可など論点が多い
    専門家への個別依頼をいとわない 調査や書類作成を任せたい

    築古店舗付き住宅は、再建築可否・テナント・設備・税務の按分と、論点が重なりやすい物件種別です。買主が決まっている場合でも、リスクの大きさを見極めたうえで、個人間売買+専門家の個別関与にするか、仲介に切り替えるかを判断するとよいでしょう。迷ったら、契約前に弁護士と税理士へ一度相談し、リスクの全体像を把握してから決めることをおすすめします。

    【税務・法務に関する専門家相談のご案内】

    税理士(不動産投資専門):売買価格の妥当性とみなし贈与の判定リスク、譲渡所得税の試算、店舗部分と住居部分の按分、減価償却の整理、売却後の確定申告など、個人間売買の税務全般は不動産税務に詳しい税理士への事前相談が安心です。

    弁護士(不動産・事業用):売買契約書の作成・チェック、契約不適合責任の免責条項、テナント付き物件の契約引き継ぎ、引き渡し後のトラブル対応などは、不動産分野に詳しい弁護士の関与が有効とされます。

    建築士:再建築可否や既存不適格の確認、インスペクションによる建物状態の把握など、築古特有の建物・法規制面の調査は建築士の知見が役立ちます。

    設備業者:厨房・空調・ダクト・給排水など店舗設備の点検や修繕見積もりは、引き渡し範囲の取り決めや価格調整の材料として設備業者への依頼が有効です。

    よくある質問(FAQ)

    ポイントは1個:個人間売買についてよく寄せられる10の疑問に回答します。個別の判断は弁護士・税理士など専門家への相談をおすすめします。
    Q1. 不動産会社を通さずに売買するのは違法ではないですか?
    A. 自分の所有する不動産を自ら売却することに宅建業免許は不要とされており、個人間売買自体は適法です。ただし、反復継続して売買を行うと宅建業に該当する可能性があるため、複数物件の売却を予定している場合は事前に弁護士等へ確認するとよいでしょう。
    Q2. 契約書なしの口約束でも売買は成立しますか?
    A. 法律上は口頭でも契約が成立し得るとされますが、不動産のような高額取引で書面を作らないのは極めてリスクが高い進め方です。条件の食い違いが起きた際に立証が困難になるため、契約書は必須と考え、作成・チェックを弁護士に依頼することをおすすめします。
    Q3. 親族に安く売りたいのですが問題ありますか?
    A. 市場価格より著しく低い価格での売買は、差額がみなし贈与と判定され、買主に贈与税が課される可能性があるとされています。どの程度の価格なら問題になりにくいかは個別事情によるため、売買前に必ずといってよいほど税理士へ相談したい論点です。
    Q4. 適正価格はどうやって調べればよいですか?
    A. 不動産会社の査定を受ける、不動産鑑定士に鑑定を依頼する、公示地価や路線価などの公的指標を参考にする方法が一般的です。店舗付き住宅は収益性も価格に影響するため、複数の根拠を組み合わせ、税務上の評価については税理士に確認すると安心です。
    Q5. 買主は住宅ローンを使えますか?
    A. 個人間売買では重要事項説明書がないことなどから、住宅ローンの利用が難しい場合があるとされています。店舗付き住宅は住居割合の要件も絡みやすいため、買主が早めに金融機関へ相談し、必要なら重要事項説明だけ不動産会社へ依頼する方法も検討しましょう。
    Q6. 登記は自分たちでできますか?
    A. 制度上は当事者でも申請可能とされますが、代金支払いと登記を同時に安全に進めるため、司法書士に依頼するのが一般的とされています。書類の不備で登記が通らないリスクを考えると、専門家への依頼費用は必要経費と考えるのが現実的です。
    Q7. テナントが入ったまま個人間売買はできますか?
    A. 可能とされていますが、賃貸借契約と敷金返還義務が買主に引き継がれる点、賃借人への通知や賃料振込先の変更手続きが必要になる点など、法的な論点が増えます。契約引き継ぎの整理は弁護士へ、賃料収入が絡む税務は税理士へ確認しながら進めましょう。
    Q8. 引き渡し後に不具合が見つかったら売主の責任になりますか?
    A. 契約書で契約不適合責任をどう定めたかによります。免責特約を設けることも可能とされますが、売主が知りながら告げなかった不具合については免責されない可能性があるとされています。告知書の作成と免責条項の設計は、弁護士に相談して整えるのが安心です。
    Q9. 個人間売買でも税金はかかりますか?
    A. 仲介の有無に関わらず、譲渡益が出れば譲渡所得税・住民税の対象となり、契約書には印紙税、買主側には登録免許税や不動産取得税がかかるのが一般的です。店舗付き住宅は居住用特例の按分など計算が複雑になりやすいため、税理士への確認をおすすめします。
    Q10. 途中で個人間売買から仲介に切り替えることはできますか?
    A. 契約締結前であれば、仲介への切り替えや、契約書作成・重要事項説明など一部業務のみの依頼に切り替えることは一般的に可能です。話が進んでから方針を変えると相手との関係に影響することもあるため、早い段階でリスクを見極め、必要なら弁護士・税理士の意見も踏まえて進め方を決めるとよいでしょう。

    まとめ|手数料の節約より「安全な取引」を優先する

    ポイントは3個:①個人間売買は手数料節約と柔軟さが魅力、②契約・融資・税務のリスクは専門家の個別関与でカバーする、③築古店舗付き住宅は論点が多いため迷ったら仲介や専門家相談を選ぶのが安全。

    築古店舗付き住宅の個人間売買は、仲介手数料がかからず、買主が決まっていればスピーディーかつ柔軟に進められる魅力的な選択肢です。一方で、契約書の不備、契約不適合責任をめぐる争い、買主の融資の壁、みなし贈与などの税務リスクといった落とし穴があり、特に築古×店舗付きという物件特性は、その難易度を一段と高める傾向があります。

    安全に進める鍵は、「省いた仲介機能を専門家で補う」という発想です。契約書は弁護士、登記は司法書士、価格と税金は税理士、建物は建築士。この分担を惜しまなければ、個人間売買でもリスクを抑えた取引は十分に目指せると考えられます。逆に、専門家費用すら惜しんで進めるのは、節約額に見合わないリスクを抱え込むことになりかねません。

    買主候補がいる方も、まだ検討段階の方も、まずは物件の状況とリスクの全体像を整理することから始めてみてください。個人間売買と仲介のどちらが合うか迷う場合は、事業用不動産に詳しい相談先の意見を聞いてから判断しても遅くはありません。

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